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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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universe10 もうひとつの歴史


 坑道は、思ったより浅かった。
 潜入してから2時間。行ける場所は全て足を踏み入れた。どの部屋も放棄されてからかなりの時間が経っており、人の気配を感じさせるものは何もなかった。
「……足跡はここまで。壁に向かって途切れてますわ」
 アナスタシアは迷わず突き当たりの壁を調べた。手の甲で壁を叩くと、わずかに音が軽い。金属の表面に岩を張り付けたものだろう。
「どうやって開けましょう」
「力技は論外として、オープンセサミも現実的ではないですわね。体内の認証機器で判別してるというのも考え難いですし……」
 壁を叩きながらアナスタシアは言って、
「どこかに制御する方法があるはずですわ」
 と続けた。
「フォトンの流れを読んでみますよ」
 ファビアが右手を突き出し、掌を壁につけた。微量のフォトンの動きを、ファビアは感知する。素材によって流れは決まっているので、流れを見れば内部に何か違う材質があればすぐに分かるはずだ。
「……貴方の予想通りです。ここに、パネルかモニタか、コンソールらしきものがあると思います」
 言ってファビアは高さ1メートルほどの高さの壁を、軽く小突いた。
「ありがとう。ここね」
 アナスタシアが念入りに壁を調べる。カモフラージュされてはいるが、岩のくぼみに指をかけて引くと蓋が開くように壁が開いた。
 中には0〜9までが書かれたテンキーと、縦3センチ横10センチほどの小さなディスプレイ。パスワード入力式なのは用意に想像がついた。
「また古典的なものが出てきましたね……」
「まあ、こっちは簡単で助かりますけどね」
 アナスタシアは言いながら、左手の二の腕を開く。中から何本かのコードを取り出して、パネルにつないでいった。
「ブルートフォース・アタックなんて、久々にやりますわ」
 無邪気に微笑んで、ワクワクを抑えられないような口調でアナスタシアは言った。
 ディスプレイの表示が目まぐるしく変わったと思うと、『137914115』と数字が点滅する。ピッ、という電子音が鳴ったと思うと、岩壁が上へとせりあがった。
「……これは」
 二人は息を飲んだ。中は明らかな人工物だったからだ。
「見て下さい、この壁。かなり古いものですよ。見た事の無いテクノロジーだ……」
 暗い緑を基調とした金属壁を見て、ファビアは言う。
「……これはかなり古いものですわ。材質も初めて見ます……グラール太陽系外の技術かもしれません」
「ロストテクノロジーを再利用されていたりしたら、面倒が増える可能性がありますわね……」
「その通りですね。警戒していかないと……」
 二人はゆっくりと歩き出す。
 暗がりに、金属を踏むコツコツという足音だけが響く。その音があまりに反響するのに、アナスタシアは嫌な顔をした。これでは『近づいてます』と叫びながら歩いているようなものではないか。
「この建築物、一体何なんでしょうね」
 歩きながら、ファビアが言う。
「建物にしては、通路が長いし部屋が多いですし……居住性があるとも思えません」
「確かに……目的は何なのか、そしてこんなものが何故こんな所にあるのでしょう……?」
「うーん」
 ファビアが苦い顔で、こめかみを指で叩いた。
「どこかでこんな光景を見た事があるような……あれはどこで見たんでしたでしょう……?」
 そんなやりとりをしていると、やがて扉らしいものに突き当たった。二人が3メートルほどの距離に近づくと、扉が静かに上下へとスライドしてゆく。
「生きてますね、この建物」
「面倒にならなければいいけど……何かしら、ここは」
 進むと開けた場所に出る。幅は10メートル、長さは30メートルはあるだろうか。部屋というには広すぎるスペースだった。ちょうど各四辺にひとつずつ扉があり、入ってきた場所からはまるで広く長い通路が広がっているように思えた。
 そのまましばらく進んだ所で、後方からパシュっとわずかな音が聞こえた。
「!」
 二人はすぐに振り向く。悪い予感が、現実になっていない事を願いながら。
「……閉じ込められたというわけですか」
 慌てて駆け寄るがぱっと見、開けられるような装置は何もない。二人は軽くため息をついた。
「無理にでも開けましょう。退路を塞がれたままで進むのは怖いですわ」
 そう言って扉に向き直ったその時だった。
 ウィーンと、機械の関節が動く音がした。二人は咄嗟に振り向く。
 体長3メートルはある巨大なロボットが、そこに立ち塞がっていた。ダークブルーの装甲で全体を包んでおり、ホバーで地面から浮いたままこちらに向き合っている。
「な……」
ロボットは明らかにこちらに気付いており、ゆっくりとこちらに近づいてきた。いや、ホバーの力を借りてこの速度とは、かなりの重量があるのだろう。
 不意に背中のハッチが開き、数本のランチャーミサイルが孤を描いて降り注ぐ。
「やるしかありませんわ」
「そのようですね」
 アナスタシアはダガーを右手に、マシンガンを左手に。ファビアは杖を両手に。構えながら二人が左右に散る。先ほどまで二人がいた場所に、ランチャーミサイルが爆音と共に叩き込まれた。
「私が足を止めますわ! ファビアは致命傷を叩き込んでください!」
 叫びながら彼女はロボットとの距離を一気に詰める。マシンガンが一定のリズムを刻みながら弾を吐き出し、堅い装甲の表面で小さな火花が何度も弾けた。
 再度、背面からミサイルが発射された。アナスタシアに向かって降り注ぐが、彼女は素早くその隙間をかいくぐる。
「致命傷……えらく簡単に言ってくれますね」
 苦笑しながら、ファビアは精神を統一する。大気中のフォトンが、彼を中心として集まりだす。全てを司る大気中のフォトン、それを自分の中で練り上げ、媒体である杖から放出する……!

「炎よ、焼き尽くせ……フォイエ!」
 直径2メートルを越える炎の玉。それは一直線にロボットへと向かっていく。ロボットはアナスタシアに気を取られているのか、回避行動を取らない。
 ゴキィィン、と重い金属の塊同士が激しくぶつかるような音が響いた。アナスタシアは思わず、その音に反応して振り向いてしまう。そしてその光景に目を見開いた。
 彼のテクニック能力は確かに高い。しかし……炎にあれだけの質量を持たせるということが、現実に可能だったとは……!
 燃える、というよりも高熱に溶かされる、といった方が正しいかもしれない。ロボットの装甲に火がつき、吹き飛ばされてから地面に落ちて、動きが止まった。
「すごい……」
 火だるまのロボットを見上げて、アナスタシアが呟く。
「本当に一撃ですわ」
「いや……」
 ファビアが苦い顔で呟いて、ロボットを促した。
 不意に、爆発音が響いたと思った瞬間、ロボットの装甲が弾け飛んだ。弾けとんだ装甲がばらばらと降りそそぎ、アナスタシアは飛び退く。
「きゃっ!?」
 がらんがらんと重みのある音が響いて、床に装甲だったものが転がった。
「装甲を捨てる事で中心部の被害を減少させる……原始的ではありますが、効果は確実ですね」
 煙の中に仁王立つその姿は一回り小さくはなったものの、ダークブルーの装甲は相変わらずで、なおも重量感を維持していた。
「なんて非効率な!」