小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章
「昔はよくある手法だったようですよ」
「……スマートではありませんわ」
少し拗ねたような顔で、アナスタシアは呟く。まったくもって、ローテクノロジーではないか。
「さ……いきますよ」
「ええ」
第二ラウンド開始だ。
「長期戦になるかもしれませんから、援護します。フォトンよ、鎧となれ……デフバール」
ファビアのテクニックが物理ダメージを軽減する青い光となり、体を包み込んだ。二人は終わりの見えない戦いに再度挑む決意を固める。
「はああぁぁぁぁっ!」
アナスタシアが、ダガーで斬りつける。装甲ではじかれてしまうが問題はない。これも洞察する時間だと思えばいい。もし装甲に隙間でもあれば内部をぶち抜いてやろうと考えていたのだが、生憎そんな隙間は無い。
そんな事を考えながら、戦闘は続く。雨のように降り注ぐミサイルをかいくぐり、装甲を何度も吹き飛ばす。
「危ない!」
ファビアが叫んだ。
「!?」
気づいた時にはもう遅かった。死角となっていた右側後部。右肩の後ろから爆発と衝撃が伝わる。ミサイルが一発、着弾していた。
「なっ!?」
おかしい。確かにミサイルは全段回避しているはずだが……さっそく防御テクニックに助けられた。おかげで表面の装甲が少し損傷しただけだ。
「アナスタシア! 動きが早くなり、攻撃が激しくなってきています!」
アナスタシアははっとしてロボットを見上げる。そうだ、装甲が減った分、動きが早くなっているのだ。おまけに、装甲の下から新たなランチャーが顔を出しているではないか。
「迂闊でしたわ……ファビア! 一気にカタをつけます!」
その声にファビアが構える。
「本部へ要請! SUVウェポン・シュトルムアタッカー使用許可を!」
アナスタシアの頭上に、円形のゲートが開く。そこから、全長3メートルはある砲身を持つ、二丁の砲門が転送され、アナスタシアの体の両脇に降り立つ。
衛星から超長距離ナノトランスで転送し、特殊装備を一時的に装備する、ガーディアンズにのみ許された兵器。それを"SUVウェポン・システム"と呼ぶ。
砲身上部のシャッターが開き、おびただしい数のミサイルが舞い上がってゆく。空中で弾頭が開き、数えられないほどの弾が爆発しながら降り注ぐ。
「わたくしの力……感じなさいッ!!」
「静かに猛る氷神よ、我を媒体に氷の力を行使せよ……」
ファビアの体が冷気に包まれる。大量の氷の粒が作られて浮かび、ファビアを中心に渦を巻く。それらすべてが、まるでほとばしる吹雪のようにうねり、ロボットを巻き込んで嵐を起こす。
「ギ・バータ!!」
非常識なほどの爆発、そして荒れ狂う冷気が場を包む。ロボットが燃えあがっては爆発し、爆発しては氷塊にぶち当たる。この地獄から逃れる手段は永遠にないのだと思えるような連続攻撃。
砲門がゲートに消えてすぐ、炎に包まれたロボットにアナスタシアは飛び乗った。装甲を足場に、器用に駆け上ってゆく。一番上まで上っても頭部らしい頭部はなかったが、装甲の隙間にメインカメラらしきものがある。迷わずダガーをそこに突き立てた。思ったより深くは刺さらなかったが、装甲に傷を付けられれば充分だ。その傷跡にマシンガンをつきつけ、弾丸を叩き込む。
「ギ……ギギギギ」
火花を放ちながら、ロボットが奇妙な音を発する。アナスタシアが離脱して、ファビアに駆け寄る。
「後悔なさい」
背後で、ロボットが大爆発を起こした。
「お見事」
「どうも」
ファビアが挙げた掌を、アナスタシアがパシンと叩いた。
「面倒な相手でしたわ」
安堵の息か、ため息か。息を吐いて炎に包まれた残骸を振り返る。ふと、ロボットのランチャーが足元に一基転がっているのに気づいて手に取る。爆発で吹っ飛んできたのだろうか。
「……実弾兵器ですか。旧テクノロジーですわね」
「味があって、嫌いではないですけどね」
「それは同感ですけど……この状態でそう思える余裕は、まだありませんわね」
アナスタシアが言いながらランチャーを弄びながら見つめている。
「まあ、これを持ち帰って調べてもらいましょう。何か分かるかもしれませんし」
「ですね。……しかし、派手にやってしまいましたね」
「……そうですわね、これじゃあ隠密とはお世辞にもいえませんわ。この時点から強行突破へと作戦を変更します」
「了解しました」
二人は向かい合って頷いてから、走り出した。とにかく奥へと突き進み、早くこの任務を終わらせるために。
作品名:小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章 作家名:勇魚