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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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「コラ、起きろ」
  言いながらカズンはアンドリューの頭を小突く。その衝撃にはっとなって顔を上げ、彼はきょろきょろと辺りを見回してから、呟いた。
「……あれ?」
「あれ、じゃねぇよ。壁に穴を開ける気か」
「いやいや、そんなつもりじゃ」
「ったくしょがねぇな」
「久しぶりですわね、アンドリュー」
  アナスタシアは手を振ろうとして、振れないのに気づいて苦笑する。
「お、アナスタシアじゃないか。元気にやってる?」
「ええ、お蔭様で。アンドリューは?」
「壁と向かい合う毎日だよ。壁は男のロマンだからね」
「……また始まった」
  カズンがため息をついて苦笑する。それを気にもしないで、アンドリューは語りだす。
「だって、壁はロマンだよ? だから俺は壁LOVEなんだ。たとえばこの壁」
  言いながらアンドリューは壁を拳で何度か叩く。
「一見、ただの鉄の壁に見えるだろ? 違うんだな、これが……ふむふむ。表面は厚さ2ミリの鉄板か。中に通ってる柱は鉄芯で直径3ミリ。……予算なかったの? カズじぃ」
「ほっとけ」
「それが460ミリ間隔で並んでるな……間はよくあるコンクリート。その層が800ミリ……どう?」
「ああ、正解だよ。まったく、叩いただけでよく分かるな」
「よし。……この通り、見ただけでは分からない部分があって、壁は成り立ってるんだ。その機能を果たすためにね」
「なるほど。面白いですわ」
  言ってアナスタシアは微笑んだ。多少着眼点は特殊だが、彼の真面目さや勉強熱心な所が伺われる。
「とりあえず、今は整備が先だろ。ほら行った行った」
  カズンが虫を払うように手をぱたぱたさせて、アンドリューを追い払う。その光景をアナスタシアは微笑みながら見ていた。
「……ところで、相談があるんじゃが」
「相談?」
「そうじゃ。……最近生まれた、ワシの子供の面倒をたまに見てくれんかの」
「ええ、わたくしの兄弟になりますもの、もちろんですわ」
  アナスタシアは笑顔で答えた。カズンが作った"子供たち"はすでに30体を越えている。幼い時から家族のように過ごしてきたし、彼女自身も兄や姉にあたる人たちから何度も助けられてきた。そんな自分が、下の子の面倒を見るのは当然の事だと素直に思った。
「その……あれだ」
 いやに歯切れ悪く、あたかも秘密をこっそり話すかのようなためらいを見せながら、カズンは続けた。あまりにも不自然なその態度に、アナスタシアは首を傾げる。
「実は……今回はちょっと事情が違うんじゃ。今まで、ワシは人工知能も全て設計して、たくさんの子供たちを作ってきたわけだ。……じゃが、ワシとレミィの間には子供をもうけてはおらんかった」
「……まさか」
  その言葉にアナスタシアは驚いたが、その"まさか"の意味に、嬉しさをあらわに言った。
「お二人の、子供!?」
「……そうじゃ。わしら二人の人工知能を元に、子供を作ったんじゃ」
  カズンは照れて、気まずそうに答える。言い終えるころにはカズンの顔は真っ赤になっていた。
「まあ……いろいろ相談しての。ワシらも年だし、動けるうちにって事でな……」
「おめでとうございます! うわぁ……すごい、お二人の愛の結晶ですね……!」
  アナスタシアは子供のようにはしゃいで言う。キャストには妊娠や出産の概念が無いからこそ、子供をもうけるという事は非常に尊いことであり、同時に素晴らしいことだった。
「で、どんな子供なんですか? 男? 女? 性格は? 名前は?」
「お、落ち着けアナスタシア。いま連れてきてやるから」
「えっ! 見たいです、今すぐ見たいですわ!」
「分かったから、落ち着け!」
  カズンが言いながら奥に消える。そしてすぐに、子供を抱いて戻ってきた。
「わぁ……!」
「名前は"アンヌ"。女の子だ。……おい、アナスタシアの上半身を繋げてやってくれ」
  カズンの声にエンジニアたちが応じる。あっという間にアナスタシアの腰から上が結合された。
「……二人でいろいろ考えて、外見は生体パーツを選んだ。……この子には、種族や性別を越えて人と平和を愛する子になって欲しいんじゃ……」
  カズンがゆっくりと、アナスタシアの両手にアンヌを預けた。生体パーツを多用しているため、外見はヒューマンに非常に近い。関節の継ぎ目が無ければ、キャストだと分からないかもしれない。
  アナスタシアはその軽さに驚きながらも、生命の重さをしっかり感じ取る。柔らかな肌、まだ薄い生えたばかりに見える銀の髪。そして、無邪気に微笑む笑顔はきょろきょろと辺りを見回している。
「……その想い、きっと伝わりますわ」
  アナスタシアは優しく微笑んで、アンヌの髪を撫でた。くすぐったいらしく、アンヌはきゃっきゃと笑う。
  そして、その暖かい気持ちはすぐにそれは決意に変わる。大切なものを、護れるように。
 大事な人を護れるようになりたい……。
「……カズじぃ、わたくしで良ければいつでも声をかけてください」
「ありがとう。助かるわい」
「あにゃ……たーしゃ」
  アンヌが笑いながら言った。二人は驚いてアンヌを見る。まさか……今、なんと言った?
「まさか」
 カズンが呟いて、驚いた顔を上げてアナスタシアを見つめる。アナスタシアもまた、驚いた顔でそれを見つめ返した。
「わたくしの……名前、覚えてくれたみたいですわ」
「あにゃたーしゃ! きゃっきゃっ」
「おお……アンヌ……」
  無邪気に笑うアンネを見ながら、カズンがくしゃくしゃになった顔で泣きそうになって呟いた。その顔はいつもの職人としての顔ではない。たった一人の父親であり、たった一人の平和を願う者の顔だった。
「……はじめまして、アンヌ。これからも、よろしくね……」
  そう、強くならなければ。誰かを護れるように……。
  微笑みながら、その腕の中の温もりをアナスタシアはそっと抱きしめた。