小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
言いながら、椅子を引き出して座った。
「とりあえず、話をまとめるわね。今回の事件は、オウトク山近辺で変死体が発見され、A・フォトンが検出されたということから始まっているわ。同じ頃に、アナスタシアはモトゥブでローグスの調査、及び交戦を行い、バーバラという元博士、ならびにコナンドラム構成員と思われるジャッキーと遭遇。その後、死体事件の調査に向かったランディたちがジャッキーと交戦した事から、事件にはコナンドラムが関わっていると推測できます」
「……武器だけでなく、テクニックのフォトンまで無効化されたのには参りましたわ」
アナスタシアがうつむいたまま言った。屈辱に下唇を強く噛む。
「あの犬野郎、次に会ったらただじゃおかねぇ」
ランディも敵意剥き出しで続ける。
「気になるのは、『模擬戦』だの『素体』だの言ってた事だな」
「コナンドラムが絡んでいる、という時点でろくでもない実験をしているのは容易に推測できるわね」
アルファがため息をつきながら続けた。
「そして、ダーククロウとその団長・イオリだけど、オウトク山近辺に拠点を持つ組織に所属しているという情報から、コナンドラムや今回の事件につながりがあると思われます。また、オルハとイオリが交戦したという情報を24時間以内に入手していたC4も、何らかの繋がりがあると推測しています」
「己を鍛える事に腐心しているのはいいのですが、そのために人を巻き込むのはよくありませんね」
「だよね。でもC4は、結局何がしたかったんだろう……?」
ファビアとオルハも感想を述べる。
「まとめるとこんな感じだわ。詳しい作戦行動は明日以降になると思うけど、今のうちに情報を共有しておきましょう」
アルファは持っていた紙束をばさっ、とテーブルに軽く投げ捨て、ため息に近い息を吐いた。
「で、これからどう動く予定なんだ?」
「ランディはアナスタシアのチームに入って。モトゥブで彼らの足跡が追えるかもしれないの。詳しくはアナスタシア、説明してあげて」
アルファが促すと、アナスタシアが頷いた。
「一昨日にわたくしとファビアがモトゥブの拠点の探索をしましたわ。その後情報を集めた所、ほぼ同時刻にヴィオ・トンガに向かってフライヤーが飛び立ったのを、見たガーディアンがいたのです」
ヴィオ・トンガとはモトゥブの北方に広がる氷に包まれた土地だ。その気候から、人もまず住んでいないしそこに向かう者もそういない。
その任務の過酷さを思ってか、アナスタシアはゆっくりと息を吐いた。
「その目撃者にも明日は同行してもらう予定です」
「了解。ひと暴れしてやるか」
ランディは嬉しそうに腕を鳴らして言った。
「また傷開いちゃっても、ボク知らないよ〜」
「ま、なんとかなるさ」
苦笑するオルハに、ランディは笑って答えた。
「それで、私たちは?」
ファビアが聞いた。
「ファビアは、オルハを連れてオウトク山近辺にあるという拠点捜索を続けて。派手な戦闘を行っていたり、イオリやC4が近辺にいるぐらいだもの。近くにあるのは、重要な拠点である可能性は高いわ」
「分かりました」
「ねぇ、こっちは二人だけ? イチコは?」
ふと疑問に思ったのか、オルハが聞く。
「そうよ。イチコは、元々あなたたちにお願いしていたカマイタチ事件の任務を引き継いでもらうわ。今はこちらが優先事項だから」
「はーい」
ゆっくりとアルファが全員の顔を見渡して、一呼吸置いた。
「予想外にでけぇ話になっちまったな」
「ごめんね、ランディ。大ケガしてるのに」
「いやかまわねぇよ。やり甲斐があるってもんだ」
気遣うアルファの声に、ランディは笑顔で言った。
「えい」
こっそりと後ろから近づいて、オルハがランディの背中を包帯の上から、ばしんと叩いた。
「いってえええぇぇぇ!」
「何えらそーな事言ってんの。無理しすぎじゃない?」
「うるせぇ」
口をとがらせて、ランディは一言だけ反論した。
それを見て、全員が笑っていた……。
作品名:小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章 作家名:勇魚