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トラブル・スクエア

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 門田の中の怒りはなかなか収まらなかった。
 目前でクラスメイトがクラスメイトを交通量の激しい道路に突き飛ばそうとする姿を目撃したのだ。なんとか助けることはできたものの、いまだにショックが大きい。
 歩きながら、以前に静雄が交通事故にあったが無傷だったらしいと、クラスの連中が噂してるのを聞いたのを思い出した。しかし、だからといって突き飛ばしていいわけがない。
「……な、なあ、門田」
 背後から不安そうな声が響く。
 誰だ。今、俺はイライラしてるんだ。話しかけるな。
「……門田? おーい?」
「ん」
 それが静雄の声だとやっと気づき、そして、自分が静雄の腕を握ったままであることに彼は漸く思い至った。
 気づけば場所はもう、自宅まで僅かな距離となっていた。
 苛々したまま何も考えず帰路を急いでしまったようだ。
「悪い……静雄」
「えっ……いや、それは俺の台詞だから」
 静雄は困惑げな笑みで、髪をかく。その腕に血がついていた。
「腕、どうした?」
「え? あ、怪我してる。……さっき転んだ時かな? 気付かなかった」
「せっかくだから、うちに寄ってけよ。手当してやる」
「いや、そこまでいいって」
 慌てて遠慮する静雄だが、門田が困った様に見上げて笑うと、うろたえながら小さく頷いた。
「分かった」
「ん」
 素直に頷いてくれてほっとする。背も高いし、体力も腕力もある奴だが、その時は無性に頼りなく見えた。素直すぎて相手の嘘も演技も見分けられない困った奴だ。
 家に着くと、他の家族は留守にしていた。
 居間に招いて救急箱を取り出し、消毒して絆創膏を張ってやってから、自分の部屋へと連れていく。一旦部屋で待たせてから、冷蔵庫にあったジュースとゼリーを持って戻ると、彼は何やらとても頼りない顔で待っていた。
「どうしたんだよ、その顔」
 苦笑して、盆に乗せてきたそれらを勧める。
「あ、いや……その。早く言わなきゃと思って……ずっと言えなくて、さ」
「なんだよ?」
「……さっきは、ありがとな」
「ああ」
 恥ずかしそうに俯いて言うのがなんだかおかしくて、つい吹いてしまった。静雄はそれに少し困ったな顔をする。
「わ、笑うなよ。……でも、多分、あいつが言ったように大丈夫だったと思うから、門田ももうあんな無茶はしないほうがいいぜ」
「何が無茶だ。目の前で知り合いが車の前に突き飛ばされようとしてたら普通助けるだろ」
「そういう、もんか?」
「そういうもんだ」
 門田はゼリーをスプーンですくいながら溜息をつく。
「静雄、お前は人間なんだからな。……例え怪我しなくても痛ぇだろ?」
「……そりゃ痛ぇけど……。でも、俺らの喧嘩に誰かを巻き込むのは嫌なんだよ……」
 ゼリーを手にしながら、静雄は不安そうに言う。
「俺らの喧嘩、ねぇ」
 甘いマスカット味のかたまりを飲み込み、門田はつい繰り返していた。なんだろう、この胸に少しだけ溜まった不快感は。
 静雄の中で臨也はどんな存在なのか。知りたいと思った。
 そして、もう臨也なんかと付き合うな――と言いたい。

 ――あいつはお前と喧嘩がしたいだけで、
 ――素直なお前をからかって、意味もない暴力をふるわせて

 でも、そう伝えたら静雄はどんな顔をするんだろう。
 そしてそんな静雄に、俺は何を言うんだろう。

 気づいたら、目の前の相手を守ってやりたい、と思っている自分がいた。
 だけど誰かに守られるような奴じゃない。
 彼を守るためには、言葉通りの守るという意味ではなく、もっと大きな意味で包みこんでやらなくちゃいけないはずだ。
 ――俺はそんな風に静雄を守りたいと思っているのだろうか。

「……門田だってそれに、痛かっただろう?」
 なんてブツブツ言いつつゼリーを食うクラスメイトを見ながら、門田は自分自身にその覚悟のほどを問いかけていた。


作品名:トラブル・スクエア 作家名:あいたろ