トラブル・スクエア
門田は手を伸ばす。指の先が触れた。必死でもがくように手首をつかみ、力強く引き戻す。火事場のバカ力とはよく言ったものだ。静雄の体は勢いよく反対側に引き戻され、門田と一緒に歩道に倒れ込んだ。
「っ!!」
「ッ……てぇ……」
静雄の体を支えたまま、歩道のアスファルトで腰と背中を強かに打った門田は、流石に暫く痛みと痺れで動けなかった。しかし、その瞬間の臨也の呆けたような顔は見逃さなかった。
「……!! 門田!!」
静雄が上からどいてくれて、名前を呼んでくる。
「お、おう。……大丈夫だ」
痛みは感じたが、心配させたくはない。門田はなんとか起き上がる。すると、二人の側に立っていた臨也が声を張り上げた。
「ドタチン、馬鹿じゃないの。……シズちゃんってあのくらいのトラックに跳ねられても全然平気な化物なんだぜ? 何マジで助けちゃってるんだよ」
「てめぇ!!」
静雄が怒りで再び拳を握りしめ、立ち上がろうとする。が、そのシャツの裾を門田は強く引いた。
「やめとけ、静雄。……俺も今、はっきり分かった」
「門田?」
立ち上がろうとしたら、流石にあちこちの骨がきしんだ。静雄が慌てて支えてくれる。その親切を受け取りつつ、門田は臨也を睨みつけた。
「なんだよ、ドタチン」
「馬鹿はお前だ」
白い頬を平手で思いっきり叩いた。その反応を予想していなかったのか、臨也はまともに受けて驚いたような顔をする。隣で静雄も驚いていた。
「……な!」
「いくらなんでもやり過ぎだ。反省しろ!」
怒鳴りつける。臨也はまた頬を抑え、きょとんと目を大きく見開いて見つめていた。その顔から目をそらし、門田は静雄を連れて歩きだす。
「行くぞ、静雄」
「お、おお……」
臨也は今度はもう追って来なかった。