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あたためますか?

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現在時刻二十二時十三分、俺は仕事を終えてコンビニで夜食を買って帰宅した。
正確には俺一人ではなく千景を連れて。
偶然街で出会った訳ではない。元々昨日電話で夕飯を一緒に食べると言う約束をしていたのだ。
ただ自分の家に千景を連れて帰るという事は予定には全く無く、お陰で部屋は片付けも儘ならない状態だった。
そもそも目的だった夕食すらまだなのだ。
それでも、そうしてでも俺にはやり遂げたい事があった。

「とりあえずそこ座って」

俺が指さした所に千景が腰を下ろし、その隣に俺も座る。そして座卓用の黒く四角いテーブルに、棚の奥にしまい込んでいた小さな救急箱をコトリと置いた。
救急箱の外見は木目の入った綺麗な薄茶の木箱で、まだ買った当時の様に特に目立った傷も見当たらない。そして中に入っていたものといえば風邪薬や絆創膏など本当に必要最低限な物ばかりで、如何に自分には普段不要なものであるという事が分かる様態だった。偶然にも未開封の包帯が一つ入っていたが、これではただ包帯を巻き直すだけで傷の治療には至れない。

「っと、俺からやり直してやるって言ったのに大したもん入って無かったな。すまんちょっとコンビニ行って来る」

そう言って立ち上がろうとしたら千景が俺の服の裾をくいっと引っ張った。

「マジ別に良いって、傷口はココ来る前に消毒してっから」
「・・・そうか、じゃあ包帯巻き直すだけでもやるか」
「ああ」

再び千景と向かい合うように隣に腰を下ろし、千景の左手を自分の手で掬い上げた。
その手は思いの他ひやりとしていて、夜風に当たった所為かとも考えたが、今日はそこまで気温は落ちていない。
もしかしたら自分の体温の方が高いのかもしれない。ただそれはきっと、例えば風邪の熱とは違うもの。
その熱を誤魔化すかの様に俺は千景の左手首を覆う包帯を解いていった。
何か言い聞かせるものが無ければ、余計な事を考えてしまいそうだった。ただ俺は、治療する為に千景を自宅に招き入れたのに。
俺が包帯を巻き直す間、千景は何も言わずぼんやりと左手首を見つめていた。

「・・・・・・なあ。おい、門田聞いてんの?おいってば!」
「っ・・・あ、悪い。何だ」
「・・・んだじゃねぇよ、まだ?」

ハッとして手元をみると必要以上にぐるぐると包帯を巻いてしまっていた。どうやらぼんやりしていたのは自分の方だったらしい。

「悪い」
「別に、仕事で疲れてんじゃねーのアンタ」
「・・・まぁ、ここの所急ぎの仕事が詰まってたのは確かだが」
「明日ゆっくりする予定じゃ無かったのか?休みなんだろ?」
「だからお前と約束したんだよ。日曜日の休みは久々だからな」

俺の仕事は不定休と言うほどでは無いものの、必ずしも土日祝が休みと言う訳でも無かった。最近立て続けに新規オープンの店や改装工事先からの依頼が多く重なって入り、帰りが遅くなったり休みの予定が出勤に切り替わったりしていたのは確かだ。
だから久々の日曜休日という事への浮ついた気分と、それから・・・。
それから何と説明しようかとふと千景をみると、千景も俺を見ていた。無表情と言うより、少し怒っている様にも見えなくも無い。

「・・・どうした?」
「・・・忙しいなら約束なんていつでも良かったのに」
「でも平日じゃそう呼べないだろ。俺が動くなら良いが、お前も学校が有るのに簡単に平日に来いなんて言えない」

お互い同じ東京に住んでいれば平日でも構わなかったかもしれないが、自分は仕事をしていて且つ千景は一応学生・・・埼玉は決して遠い場所では無いにせよ、簡単に呼び寄せる訳にもいかない。

「バイク飛ばせばすぐじゃん」
「平日くらい地元で学生業に専念しておけ。ガソリン代も馬鹿にならんだろうが」
「何それどこの主婦だよ。あ、こういう時はシュフのフはオットって書くんだっけ?」

マジウケるんだけど、とさっきまで無表情だった千景が少し笑った。笑うと言っても口角が多少上がった程度だったが。
女性相手だと良く笑う千景をみている一方、自分に対しては無表情である事も多いので珍しいと言えば珍しいのだが。

「なあ、明日映画でも行くか?」

それは本当に思いつきだった。何か考えがあって言ったわけでも無ければ、以前から観たいものがあったわけでも無い。

「は?いきなりだな。観たいもん有るなら良いけど今何か話題なもんあってたか?」
「面白いのとか」
「何だよそれ無計画かよ」
「お前が笑う顔が見たいと思って」

空気が、ぴたり、と止まった気がした。実際辺りを漂う空気が止まるなんてそうそうあり得る事でも無いから例えに過ぎないが、そう言いたくなるくらいに千景の動きが固まったのだ。
作品名:あたためますか? 作家名:あやき”り