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春よこい。

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平均より低いであろう背丈は、平均より高い背の静雄と向かい合わせに立てば自然と見上げ見下ろしな態勢になる。
二人の距離を開ければ首の負担は無くなるのだが、それだと会話をしづらい。
だから自然と静雄は彼女と会話する時、適当な場所に腰を降ろして視線を合わすのだ。
そうすると彼女の顔がよく見える。
感情豊かにころころと変わる、年下の彼女の表情が静雄は気に入っていた。






静雄が仕事帰りにぶらぶらと池袋を歩いていたら、後ろから「平和島さん」と呼ばれた。
静雄に声をかける人間など限られているのと、何よりその声の主を知っていた静雄は身体ごと振り返る。
そこにはやはり想像した通りの人物が小走りに静雄の元へと駆けてきた。
少女は静雄の前に立つと、走ってきたせいか紅潮した頬でにっこり笑って「こんにちは」と挨拶をする。
その笑顔に若干動揺しつつ、静雄もまた「おう」と軽く返して、その大きな掌で少女の小さな頭をわしゃわしゃと(けれど慎重に)撫ぜた。
少女は「ぼさぼさになっちゃいます」と抗議しながらも嬉しそうに笑う。
ここまでが少女、――竜ヶ峰帝人との恒例な挨拶になるのだ。


「お仕事中ですか?」
「いや、今日はもう終わった」
「こっちもテスト週間で学校が午前までだったんです。ちょっと息抜きで散歩してました」
「余裕だな」
「そんなことないですよ。今さらじたばたしても遅いかなって半分諦めてるだけです」

殺伐でもなく、愚痴でもなく、一方的な愛の語らいでもない、本当に何気ない日常の会話を童顔ではあるが現役女子高生とするなんて、ほんの数カ月前までは思いもしなかった。
とはいえ、帝人はそこらへんに居る同年代の人間とは若干ずれており、自販機を投げ飛ばす静雄にきらきらとした視線を向けたり、首無しライダーであるセルティに頬を紅潮させたりと、本来ならば人が恐れ慄くであろう瞬間を帝人は顔を輝かせて感動するのだ。
今この時だって、散々静雄の破壊行為を見ているはずなのに、初めて会った時と変わらない態度で静雄に笑顔を向けてくる。
少し変わってはいるが純粋な生き物に静雄は正直どう接したらいいかわからなかった。
セルティや新羅は「普通でいいんじゃないか?」と言うが、静雄の普通は『普通』ではないし、もしそれで帝人を傷つけてしまったら多分というか絶対立ち直れない気がするのだ。
だったら、傷付けずにすむよう避ければいい話なのだが、少女との会話を手放すのは惜しかったし、何より笑顔が見られないのは嫌だった。
しかも新羅曰く、彼女はどうやらあの折原臨也にも気に入られているらしい。
あのノミ蟲にかっぱらっていかれるのも癪に障ると考えた静雄は、自分らしくないと思いつつも慎重に彼女と向きあうことに決めた。
そんな静雄の葛藤と決意のおかげで、知り合って間もないが、相手の姿を見かけると声を掛け合う間柄になった。

ガードレールに腰掛けた静雄は楽しそうに話す帝人を眺めていたが、ふいに視線を落とした時彼女の膝小僧に貼られたガーゼの存在に気付く。
「竜ヶ峰、それどうした?」
「え?・・・あ、これですか?」
すると帝人は恥かしそうに、頬に流れた髪を耳にかけた。
「体育の時間でこけちゃって。擦り剥いただけなのに、ちょっと大げさですよね」
なのに紀田君が『せっかくの綺麗な足に痕付けんな!』って煩いんです。
拗ねたような横顔は満更でもないようにも見えて、少しだけ面白くなかった。
「竜ヶ峰は鈍そうだな」
「う、平和島さんまでそう言いますか・・・」
「よく言われんのか」
「不本意ながら。でもちょっとだけですよ!・・・・確かに体育の成績はあんまり良くないんですけど」
帝人ははあっとため息を吐いて、「僕もセルティさんみたいに壁とか駆け昇れたらなぁ」とやっぱりずれた事を言った。
思わず「それは無理だろ」と突っ込めば、「言ってみただけです!」と反論された。
それでも半分本気だったんだろうなと静雄は思いながら、喉を鳴らして笑った。
面白い、そして楽しいと思う。
静雄よりも小さくて華奢な少女から与えられる、どこか面映ゆい感情が静雄はけして嫌いではなかった。
出来るならば、ずっと味わっていたいとさえ思うようになっている。
ただその手段がわからない静雄は、せめて少女との時間を少しでも伸ばせるよう、不器用ながらも試行錯誤して時間を繋いでいるのだ。
そんな静雄の遅れた青春を、彼の旧友たちが微笑ましく見守っているのを当事者の二人だけが知らない。
少女の肩に付くか付かないかの長さの髪が身じろぐたびにゆらゆら揺れる。
毎回のように頭を撫ぜているのは、ちょうどいい位置に頭があるのとその感触の心地良さにある。
短い前髪から覗くおでこの形良さも、思わずつついてみたくなる(自制しているが)ほどだ。
(目も、でかい)
鼻や唇、耳などパーツの一つ一つは小ぶりだが、目は大きい。
それを縁取る睫毛は天然かは知らないがゆるくカールをしており、一瞬見せる表情の華やかさに一役買っている。
(ちっせぇし華奢だけど、・・・・胸はある)
どうしてもそっちに思考がいってしまうのは男の性だ。
腰も良い具合にくびれてるし、将来はいい女になることは間違いないだろう。
(いや、今でも十分いい女だが)
足だって無駄な肉が付いておらず、綺麗な形だ。
確かに傷跡が残るのは忍びないなと紀田とやらに同意する。
(肌も白いし。化粧ッ気ねぇけど、充分だよなぁ。むしろしてほしくない)
したらきっと無駄な虫が増える。
ただでさえ殺したいノミ蟲が居るというのに。
「あ、あの」
静雄が頭の中でそのノミ蟲とやらを二つに引き千切っている時、下から声が聞こえた。
何だと顔を向けると、さっきまでは静雄を真っ直ぐ見つめていた少女が頭を俯けて、居心地が悪そうに身じろぎをした。
そして小さく、「あの、手が」と呟いた。
(手?)
少女の手は肩掛けのバックの紐をしっかりと握っている。
そして、自分の右手はズボンのポケットに、左手は少女の頬に添えられていた。
少女の、頬に。


 ほ っ ぺ た に ?


「どうわああああああああああああああああああああッ」
「うひゃあ!」
「悪いすまんごめんなさい!!」
「(平和島さんの口からごめんなさいが!)い、いえ!大丈夫ですから落ちついて下さいッ」
暴走する静雄はいくら帝人でも抑えきれない。
その前にと、帝人は反射的に宙に浮いた静雄の左手を掴んだ。
「ッ!」
「平気です!ええと別にぶたれたわけでもないし、怖くもなかったですからっ。ただ、そうちょっと恥ずかしいなぁって思っただけで」
何とか静雄を落ちつけようと色々帝人は言っていたが、静雄はそれどころではなかった。
(手握っ、てかちっさっ!)
一回りも小さい手は柔らかくてふわりとしている。
女の子の手だと、静雄は自覚した途端、喧嘩の時とはまた違う形で血圧が上がった。
それを勘違いしたのか、帝人はますます握る手の力を強くして、静雄の顔を覗き込んだ。
「ほんとに怖くなかったですから!平和島さんが無意味に人を傷つけたりしないって、ほんとはすごく優しいって僕わかってますから、だから、・・・・・・・・平和島さん?」
「い、いや、何でもねぇ・・・・ってか、竜ヶ峰」
「はい?」
作品名:春よこい。 作家名:いの