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みとなんこ@紺
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トラリトゥルリ

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――――クシュン。
「?どうかしたか?」
「…何でもないよ」
今頃また怒られてるんじゃないかな、とのんびり返されてソルは軽く首を傾げる。トウヤは、何でもないよと続けて微笑んだ。
祭りは佳境に入ったらしい。
取り合えず2人で色々見て回って雰囲気を楽しんだ後、空いていた石段に腰掛けて、少し離れたところから祭りを眺めている。…散々人混みを歩き回って少し疲れた。
「この後、花火上がるんだよね?」
「そうらしいな。皆、港の方へ向かってる」
辺りを見回すと、皆既に心は花火へと向いているのか、各々高台になっている場所に陣取る者や、もっと近くで見ようと打ち上げ場所になっている港の方へ向かっている者と、様々だが。
そんな様子を眺めながら、トウヤは僅かに目を細めた。
「何か懐かしいな」
「…祭りの様子は変わらないか」
潜めたソルの問いに、彼はいつになく素直に頷いた。
「夏になるとこんな祭りをあちこちでやるよ。さすがに規模が全然違うけど」
「ファナンの街全体がお祭り騒ぎだからな」
「もっと狭い地域ごとに広場に集まってやるんだよ。僕も浴衣着てよく行った」
「ユカタ?」
「・・・えっと…カイナやカザミネさんが着てるシルターンの服、が一番近いかな。もっと軽装っぽいけど」
「ふーん…」
正直、あまり想像はつかなかったが、トウヤもそれ以上の説明をするつもりがないらしいので、ソルはさっきその辺で一緒に買った氷菓子―――かき氷というらしい―――攻略に戻ることにした。
食べつけないのか、妙に神妙な面持ちで氷を崩すソルを見て、トウヤは気付かれないように薄く笑った。こんな真剣な顔でかき氷を食べる人は初めて見る。
どうしても笑ってしまいそうなのを抑えきれずに、トウヤは視界に収めないように顔を逸らした。

――――と。

「…?」
何か、が視界の隅に引っ掛かった。
「・・・トウヤ?」
不意に隣に座っていた彼の雰囲気が切り替わったような気がして、ソルは訝しげに名を呼ぶ。
彼の視線の先を追っても、人家の建ち並ぶ暗い路地の方には何も見あたらない。
「おい・・・っ?」
問いかけには答えないまま、やおら氷をその場に置くと「ソルはここにいて」と言い残して、トウヤは一直線にその路地の方向へと駈けだした。
「…っ。そう言うわけにいかないだろう…!」
ああもう、まだ半分も食べてないのに、と少々ずれた事を考えながら、ソルも氷を置いて迷わず後を追って走り出した。

本気で走るトウヤは速い。ソルだって別に足が遅いわけではないのだが、体力本意は専門外。
祭りの日だからか、あちこちにぶら下げられた明かりに照らされる背を失わないようにするのが精一杯だ。
だが瞬発力はまだしも、持久力には自信はない。いくつかの路地を曲がり、これ以上先に行かれるとマズいか、と思ったところで。先の路地を曲がった辺りで何か…怒号が起こった。続いて何やら数人で争う音が。
「ッ、トウヤ!?」
慌てて路地を折れたそこには。
「あれ?ソル、来てくれたんだ」
「うぅ…」
普段と大差ない様子で笑うトウヤと、どうやら彼に叩き伏せられたらしい、ガラの悪い数人の男達。
・・・と。
「ふえぇ~、こ、怖かったですぅ~…」
・・・大きめの鳥かごに入れられた小さな羽根を持った…、
「メイトルパの、妖精…?」
得手でない属性の世界の住人のようだが、本で知識としては知っている。
だが他の種族と比較しても数は少なく、こちらではほとんど伝承・伝説やお伽噺の中の存在でしかないはずだった。
よいしょ、と驚かさないように気を遣いながら籠をそっと持ち上げて、トウヤはソルに向けて笑った。
「彼女、マルルゥって言うんだって」
もう馴染んでるのかよ。思わずかっくり肩を落としたソルを見、2人は不思議そうに顔を見合わせた。



「小さな声が聞こえた気がして。そっちを見たら丁度この人達が路地に入ろうとしてたところでね。鳥かごと、淡い緑の光しか見えなかったんだけど、目があったら慌てて逃げ出すから」
で、追いかけ回されていい加減キレた連中が待ち伏せしてたのをさくりと返り討ちにした、と。こっちはOK。
・・・問題は。
「マルルゥ、先生さんたちとお祭りを見に来たですよー」
「…何処から?」
「マルルゥたちの島からげんこつさんの大きなお船に乗ってです~」
今日は皆ウキウキだからマルルゥがこっそりいたって気付かないだろうって。先生さんのマントの影からこっそりお祭り見てたですよぅ、でも・・・。
「でも?」
「なんだかいい香りがして、ふらふら~って行ったら、気付いた時には先生さんたちがいなくなってて…」
思い出したら不安になってきたのか、ふえ、と泣き出しそうに表情が歪む。
「マルルゥ?」
「はい~…」
「一緒にその人を探してあげるから。大丈夫だから、ね」
出た。
必殺の(と勝手にガゼルに名付けられてた)笑顔を向けられ、泣きそうになっていた顔がほにゃり、とつられたような笑顔になった。
どうやら持ち直したらしいマルルゥを見遣って、ソルは一つ溜め息をついた。
おおかた何処かの召喚師とはぐれた、そのお供の護衛獣(妖精とは珍しいにも程があるが)だろう。で、ふらふらしていた所を珍しいからと危うくその辺に転がっている盗賊まがいの男たちに掴まった、と。
まぁトウヤの事だから助けた以上、最後まで面倒見ると言い出すのは予想範囲内とはいえ、…いかんせん情報が少なすぎる。
というか。
「…先生さんって人だよな?」
「マルルゥ、先生さんって?」
「先生さんは先生さんです~」

――――・・・・・・。

先は長そうだった。


作品名:トラリトゥルリ 作家名:みとなんこ@紺