銀の弾丸などはない
とうとうエドワードは開き直った。ロイの手を振り払い、ふてくされて腕組みしてそっぽを向けば、くすくす笑う声が聞こえてきた腹が立った。
「誰が、嫌いな奴のために働いてやろうなんて思うかよ! …オレだってあんたが好きだ。だから、…ただそばにいるなんて、絶対に出来ない」
頑なにそれだけは譲れない、と口にすれば、ロイが立ち上がる気配があった。避けるのも逃げるようで癪だったから、エドワードはあえて立たなかった。
ロイがそっと、エドワードの頭を抱きよせてきた時も。エドワードは微動だにせず、ロイをふりかえりもしなかった。
「そばに居てくれといっただけじゃないか。何もしなくていいなんて言ってないだろ?」
「………………」
「君にならできることがたくさんあるじゃないか」
「………。オレの居場所なんて、今さらあんたのそばにあるとは思えない」
とうとう拗ねて言ってしまった本音に、ロイは軽く間を置いてから笑いだした。
「…だから何笑って…!」
「今まで気づかなくて済まない」
「…なにが!」
照れくさいのもあってどなれば、ロイはエドワードの頭のてっぺんにそっとキスなんてしてくれた。ぴたりと固まったエドワードに、ロイは少々意地悪げに笑ってこんなことを言ってくれる。
「だから、君がそんなに私のことを好いてくれているとは気づいていなかったから」
「…な、…なにうぬぼれてんだあんた! 頭大丈夫かよ!」
精一杯照れ隠しに顔をそらすエドワードを腕に引き取って、ロイはとどめの一言を口にする。
「私の片思いだとばかり思っていたんだ。…早く言ってしまえばよかったな」
その結果どうなったかは、…数ヶ月後エドワードが錬金術大学校(かつてのそれより規模こそ縮小されたが、機能はしていた)の講師として正式に赴任し、ロイと同居を始めたことから推して知るべし、といったところだろうか。