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銀の弾丸などはない

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 呼ばれて、仕方なく素直にテーブルに着けば、正直なことに腹が鳴った。テーブルの上に並んでいるのはレストラン並みとは確かに言えなかったが、それでもそれなりに、十分に美味そうな料理だった。
「君の口に合うといいんだが」
 ロイはどことなく照れくさそうにそんなことを言った。
 ああ、もう、とエドワードは白旗を上げたい気持ちになった。まったく、この男は一体どこにこんな可愛い面を持っていたのかと。これでは好きにならないわけにいかないではないか。
「舌をあわせるよ」
「はは、お手柔らかに」
 舌を出して冗談めかして答えたら、ロイもまた笑いながら肩をすくめた。

 ムニエルはもう少し塩味があってもいいような気がしたが、それでも問題はなかった。ソーセージと根菜のスープは文句なしにうまかったし、筋肉の煮込みもうまかった。エドワードはあっという間に全部きれいに片づけて、ロイはその向かい側で嬉しそうにしていた。
「…私は思うんだが、」
 ふいに、ロイが少し遠くを見るような目をして切り出した。そろそろ空腹もだいぶ薄れてきたこともあり、エドワードは一度、食べる手を止め向かい側の男をそっと見やった。
 いつ見ても変わらないという印象しかなかったが、こうしてみると少し老けたのかもしれない。それでも、同年代と比べたらずいぶん若いことに変わりはないけれど。
「…きっと、何度も作ったり、壊したりしながら、前に進むんだな。人も、国も」
「………?」
 たぶん、とロイはそこでゆっくり顔をあげた。
「そういう風に続けていって、…気がついたら道が出来ているんだろうな」
 エドワードはじっとロイを見つめた。ロイもまた、すぐには口を開かなかった。
「誰も通ったことのない道を手探りで歩くのはとてもつらい時もある。…それでも、ひとりでないのなら、そう怖いことでもないのかもしれない」
「………あんたは大丈夫だ。オレが保証する」
 笑って言ってやれば、ロイも嬉しそうに破顔した。
「それは心強いね」
「だろう?」
「…だが、…エドワード」
 不意に真面目な表情になってロイが囁いたので、エドワードは緊張に肩を尖らせた。笑みを含まない黒い強い目がエドワードをまっすぐに見ていた。逃れることなど許さない強さで。
「私は、君にそばにいてほしい」
「……、なにいってんだ? 今だって別に…」
 ロイは遮るように首を振った。エドワードは眉をひそめる。
「そばにいてほしい。旅に出るなとは言わない。だが、もう無茶はしないでくれ」
「――――……」
 エドワードは面食らってしまって、まじまじとロイを見つめた。二言目にはこれだから、という思いもあったが、その真剣さに言い返すことができなくなっていた。
 そして思う。自分だって、彼のそばにいたくないわけではない。
「…あんたのそばにはみんながいるじゃん…」
 だが、自分よりも長い時間彼とともにあった彼らに自分が勝るものなどないとも思っていた。エドワードが彼らより彼を理解できているとも思えなかったのだ。それに、自分が彼のそばにあるのはあまり得策とも思えなかった。自分を卑下する趣味はなかったが、それでも、自分は彼にとってリスクにしかならない。
 そう思っていたのに、ロイは首を振った。
「私は欲張りなんだ」
「…は?」
「彼らは部下として、友人として必要だ。だから手放す気はさらさらない」
「………そりゃ、そうだ。手放すなんて言ったらオレは殴ってでも止めるぞ、もったいない」
「だが君にもそばにいてほしい」
「…だから、」
「君は私の部下じゃない。だがきっと、友人でもない」
 ロイはほとんど瞬きもしないでエドワードを見ていた。
「…キスしたのは冗談じゃない」
 声のトーンが一段階落とされて、エドワードは目を見開く。
 思えばここはロイの自宅で、まったくもって彼のテリトリーなのだということを今さらに自覚した。そうしたらなんだか落ち着かなくてたまらなくなって、目をあちこちにさまよわせることになる。
「本気だ」
 ロイの手が、そっとテーブルの上、エドワードの手を捕まえた。そのことにびくりとエドワードの体がはねてしまう。だが、ロイはそれについては何も言わなかった。
「君があちこちを回ってくれるのも、私のためにあれこれと動いてくれるのも、本当に感謝している。…だが、それで私がなにも思わないなんて、思わないでほしい」
「…なにも思わないまで思ってない、けど…」
 しどろもどろに返せば、ロイは悲しげに目を伏せたあと、眉根を寄せて再び視線をあげた。
「――君は確かに、私にとっての銀の弾丸かもしれないが」
「……銀の…?」
 エドワードは咄嗟に意味がとれなくて小首を傾げた。そんな青年に、ロイはゆっくりと説明する。
「モンスターへの切り札は昔から銀の武器だ。君は私にとってそういうものなんだろうなと思った」
「…それなら望むところだ。いつだって、オレはあんたのために…」
 ロイは首を振って最後まで言わせなかった。
「だが私はそんなものはほしくない」
 きっぱりとした台詞に、エドワードは息をのんだ。まるで自分が否定されたようで、すぐには言葉が出てこなかった。しかし、ロイはそこで終わりにはしなかった。
「私にはそんなものは必要ないんだ。私に必要なのは銀の弾丸ではなくて、ただ、そのままの君なんだ」
「――――…は…」
 エドワードはぽかんと口をあけて絶句してしまった。それはそうだろう。ロイの言うことは、エドワードの想像を超えるどころかむしろぶち壊していたのだから。
 ロイの、エドワードの手を握る手に力が込められた。
「…君が隣にいてくれたら、きっと、私はひとりじゃない」
 それは数の問題で言えばそうだ、――なんてこと下手な冗談も打てずに、まじまじとエドワードは向かいに座る男を見るしかできない。何を言っているのかと。
「…無理やりに、特効薬を使って治した病なんて本当に治ったとはいえないのと同じだ。どれだけかかるかわからない。それでも、たぶん、進んだり戻ったりしながらやり遂げなくてはならないことをしているから」
 抽象的な言葉が指すものは、国の変革とか政治とか社会とか、そういったことに違いなかった。エドワードはロイを助けたかった。彼を妨げるものをみんな、取り除いてやりたかった。
 だがロイはその必要はないのだという。そんなことよりも、そばにいてほしいのだと。
「……やだね」
 エドワードはむすっと眉間にしわを寄せて即座に答えた。今度は、目を丸くするのはロイの番だった。
「それじゃオレはなんのためにいるっていうんだよ、あんたは結局オレのことを見てないんじゃないか! …オレは何にもしないであんたの隣にいるなんて絶対に嫌だ」
 エドワードは苦しげに眉をしかめた。
「…そんなのは、かわいいお嬢さんのすることだ」
 ただ微笑んで、ロイの傍らにひっそりとあるなんて、そんなことは深窓の令嬢にでも頼むべき事柄だろう。エドワードではお門違いもいいところだ。
 だがロイは瞬きした後、…なぜか笑った。
「何笑ってんだよ」
 当然機嫌を降下させるエドワードに、ロイは「だってね」と笑いながら答える。
「それでは君は私が好きなように聞こえる」
「………悪いかよ!」
作品名:銀の弾丸などはない 作家名:スサ