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幸福論未満

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か細い声が、何度もごめんなさいと耳元で訴える。すっぽりと腕の中に収まる身体に、顔をすり寄せた。次第に震えて涙まじりになっていく声が、愛しくてたまらなかった。

「もういいなんて、うそです。さよならなんてしたくないです」

「ああ。俺も」

拒絶の言葉を撤回されて、安堵の息をつく。

「離してなんかやれねえ」

「僕も、です」

ぎゅっと袖に縋り付いてくる手が暖かい。

「なあ、いつでもいいからさ、今度甘いもん食いに行こうぜ。お前が好きな店教えてくれよ」

「はい。静雄さんも、その、お気に入りの店連れて行ってください」

「ああ」

わしわしと汗ばんだ頭を撫でて、濡れた目元にキスを落とす。帝人の細い腕が、恐る恐る伸ばされて、俺の背中に回る。

これからも傷つけるだろう。嫌な事をしてしまうだろう。それでも、簡単に離してなんかやれない。こうやって、返してくれる想いを免罪符に、どれだけ傷つけたって、何度も抱きしめて、繋ぎとめる。




不甲斐なくて足りないものだらけの自分自身を殴りつけようとする拳を開いて、抱きしめるために手を伸ばす。不格好で欲張りで、高尚な幸福論なんかにはなりえない。捧げられるものなんかない、繋ぎとめたいだけの、それだけの、どうしようもない恋。

それでも、思いが通じ合ったこの時を、お互いの手を離さないでいる今を、(俺は)(僕は)幸せと呼ぶ。








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原作がきついと、甘いのがほしくなる。甘くなりきれていない感じがするのは仕様です。
あと今回初めて一人称チャレンジしてみたけど、難しい。精進しよう。

原作は静ヴァロフラグ立ちまくりですが、トムヴァロって可愛くね?とこっそり思ってます。静雄をうまく扱うトムさんに何者だろうという興味から始まって、いつのまにか自分もうまく扱われてることにふくれながらいちゃついてると、私が嬉しい。そして、ヴァローナは静雄に別のライバル心を抱き始めるとか。親を取り合う兄妹みたいな感じで。

茜ちゃんは、帝人を慕ってると萌える。大好きなお兄ちゃんの恋人に恋してしまいましたって感じで。この場合静帝のどっちがどのポジションでもおいしい。マニアックですみません。小さい女の子は甘酸っぱい恋愛未満の初恋が似合いすぎてきゅんきゅんします。

いつか、今途中なのを終わらせたら、帝人くんと茜ちゃんが兄妹なパラレルが書きたい。
作品名:幸福論未満 作家名:川野礼