かわいい
七代は口角を吊り上げて、フレンチトーストにしよう、と楽しそうに呟いた。
「…………………なあ、七代」
「うん?」
のんびりと返す、その横顔に。
「お前さ…………、あんま、ひとの事、かわいいとか何とか、言うなよな。
恥ずかしいから」
壇がそう言うと。七代は笑い出した。
「そりゃごめん」
七代がすんなりと謝ったのを見、壇はようやく、納得した。
やはり。七代は知っていたのである。
「…………もっとクラスの交友関係大事にしたらどうだ?
お前のイメージ、崩れるぞ」
「イメージって何?
そりゃある程度、常識範囲内でいい顔はするけど、それ以上の努力をする気は
無いねえ、そういうのは面倒臭いし」
「面倒って、」
壇をかわいいと評した男はそう言って。
柔らかく、しかし聞く耳を持っていないようだったので、壇は早々に諦める事にした。ほぼ全科目で平均以上の成績を保持しているようなこの男を、説得出来るとは端から思ってはいない。本人がそう言うのなら、それで良いのだろう。壇とて、この男の友人をすすんで増やしても仕方が無い。
「七代」
「なに」
「ありがとな」
七代の方を見ないまま壇は言ったのだが。その横顔を無遠慮に、近距離でじっと見詰め、七代は笑み混じりの溜息を長く落とす。
そんなだから、お前は、かわいいっていうんだ
小さく、けれど壇に聞こえるだけの声音で吐かれた七代の言葉を、壇は敢えて、知らぬ顔をした。