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今日も静雄はやらかした。

 いつものごとく彼がキレる10秒前にはビルの陰に避難を完了していたトムは、あ~あと額を押さえながら通りの惨憺たる有様に溜息を落とした。
 その中心に立つ男を見やる。折った街灯を片手に、口端から流れる血をぬぐいながら、たった今全力を出し切った静雄が肩で荒く息をついていた。服はところどころ裂け、はじけたリボンタイがかろうじて襟元にひっかかって所在無く揺れている。
 ――今日は随分とひどかったな。
 その様子を冷静に観察しながらトムは小さく肩をすくめた。
(ま、仕方ないか。服をやられたんじゃな)
 静雄と二人で歩いていて、たまたまぶつかったチンピラ風の男たちが手に持っていたドリンクをぶちまけて静雄の服に大きな染みをつけたのが三分前。謝りもしないどころか静雄の風体を笑いながら男たちが立ち去ろうとしていったのが二分前。呼び止められて激昂し、さらに怒りを煽って彼のスイッチを入れたのが一分半前。
 結局たった一分半の間に男たちは池袋最凶の自動喧嘩人形の手によりあえなく撃沈して、めでたくこの惨状のできあがりというわけだ。

 ――たちが悪い。
 トムはクッと眉根を寄せて目を細めた。
(ホント、弟のことになると見境なくなるよなぁ)
 他の誰もあの怪物の力を目の当たりにしたら唖然とするばかりで気付いく余裕もないだろうが、というか静雄自身も気付いてないだろうが、彼が暴れるのには大きく分けると二種類あるとトムは思っている。一つは単に自分が気に入らないことがあってキレる時と、もう一つは弟の話が絡んだときだ。
 前者の場合は比較的被害が少ない。とはいっても自販機くらいは飛ぶし人が上空を飛ぶことはあたりまえだし、そういってしまえば被害が少ないとは到底言えないのだが、この場合はいくらか静雄にも理性が残っている。挑発されたらそれに答える言葉を返すこともできるし、周りも見えているようだ。現に人がいない間を縫ってモノを飛ばしているおかげで、通行人に怪我人がほとんどでない。
 後者の場合は違う。静雄はその力を見境なく発揮してしまう。
 まずキレるまえに嵐の前の静けさが訪れる。キレるまで顔に出さない。だからそれを知らない相手は静雄が黙っているのを見てさらに調子に乗る。さっきの男たちのように。自殺行為だと止めたところで調子付いた相手に通じるわけなく、結局は静雄のリミッターをはずしてしまうのだ。トムは経験上この手の話になったらヤバイというのがわかっているのでそっとその場を離れるようにしている。だが蔭から見ていていつも思う。この場合は確実に静雄の中から理性というものは吹っ飛んでしまっている。大抵静雄がキレたのを見た瞬間に逃げ出す人間が多いおかげで数としては少ないものの、時折関係のない人間に怪我を負わせてしまうことがあるのは間違いない事実だ。
 今日は、果たして後者だった。
 自分の目の前で腰を抜かしている女性を気の毒そうに見下ろす。彼女は静雄がキレて街灯をへし折ったその瞬間にちょうどすぐそばにいたのだろう。
「大丈夫ですか、怪我しなかったっすか」
 そう問うと、何とか女性は頷いて見せた。
「巻き込まれなくて良かったなぁ」
 独り言のように呟いて改めて周囲を見渡す。さすがに振り回したものがものだけに、今日は周囲にも怪我人を出してしまったようだ。彼女にハンカチで頬を押さえられている男や、逃げようとしてこけて膝をすりむいたのであろう少年が泣きべそをかいているのが見える。
「……」
 トムは今まで何度か静雄がキレそうになるのを食い止めてきたことがあるが、それはすべて前者に該当する場合のみだった。後者、弟のことでからかわれた静雄を止められたことは今までただの一度もない。
 一体どれだけあの服に――あの服をくれた弟に、静雄は心を預けているのだろう。そう考えるとトムは年甲斐もなく嫉妬じみた感傷に陥った。
(これじゃ恋に破れた中学生みたいじゃねーか。あーみっともね)
 そう思っても間違いじゃないと言い切れない自分がいるのも事実で、トムはそんな自分をごまかすようにくしゃりとそのドレッドヘアをかき混ぜた。
(違う、嫉妬じゃねぇ)
 何か違う。ふつふつと湧き上がるこの思いは、嫉妬とかそういうものじゃない。
 
 ――悔しいんだ……
 
 うつむいて、後頭部に回した指を力いっぱい握り締めた。

作品名:プレゼント 作家名:みづき