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できるだけ少なめのロマンスを

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沢田綱吉は、山本武が嫌いだ。


特にいじめられた訳でも無いが、綱吉の人生に山本の二文字が出てこない日は無かった。綱吉は何をやらせてみても上手くこなせない。勉強や運動は勿論、プリントだって目的地まで無事に届けられた試しが無い、普通の人間なら何の苦もなくすんなりこなすであろう仕事を何倍もややこしくする。その後は必ずダメツナと言われて、次に続くのは———、


『山本を見習え』


山本は綱吉と違い何をやらせてもそつなくこなす。勉強は多少ギリギリだが、それ以上に野球部のエースだ。クラスでは人気もの、日のあたる存在。綱吉はいつもそんな自分とは正反対の山本と比べられていたから、もういい加減うんざりしていた。

「あんな奴と一緒にされたって、出来ないもんは出来ないんだから」

ため息をはいて、床を掃除した。かしゃかしゃ綱吉のイヤホンから漏れる音。誰もしない掃除、綱吉が喋る必要なんかなかった。だからずっとイヤホンをしていた。目はうつろで、正直綱吉自身今時分がここに自分が存在するのかすら曖昧で。学校にくる理由なんかほとんどない、理由があるといえば笹川京子の存在だけ。押し付けられたホウキを綱吉は少し乱暴に掃除道具入れに放りこんだ。もう放課後、ここのところ毎日押し付けられる掃除。断れずに適当にして家に帰る。その繰り返し。家に帰っても、静かな部屋とやりつくしたゲームと彼を過剰に心配する母の声だけが綱吉を迎える。

「いま、俺が消えて。泣くのは母さんだけかな」

きっと笹川京子は泣いてくれない。

そう思うと、消えてしまってもいいかもしれない、と虚しさが綱吉の胸に渦巻いた。次の日も、次の日も繰り返す同じ日常。


「結局、また掃除。」

しかもゴミ捨て当番まで。グラウンド近くの焼却炉までいかなければいけない綱吉はipodの音量をあげた。さして重くも無いゴミ袋を両手に抱えて熱い日差しのなか焼却炉に向かった。やっとついた焼却炉、綱吉の額には少しだけ汗がういていた。

「・・・」

焼却炉の中で燃えるゴミを見つめながら、ボーっと立ち尽くす綱吉。
コロコロとグラウンドから転がってくるボールがピタリと綱吉の前でとまる、綱吉はおもむろにそのボールを手に取った。

「野球ボール。」
「わりぃ、当たんなかったか?」
「あ、」

そこに走ってきたのは、山本武だった。綱吉の耳からイヤホンがおちる。
綱吉はすぐにボールを渡してかえるつもりだった。何も喋らない、俺とこいつが話しちゃいけない気がする。そう思ったからだ。いつも屈託なく笑う山本を何気なく教室の端の席で見ていた。クラスメイトの中心で笑う山本と、教室のすみで音楽を聞いている綱吉はあまりにも居る場所が違い過ぎた。

「大丈夫。はい、」
「さんきゅ」

野球帽をとって頭を下げる山本、綱吉はイヤホンをしてすぐに立ち去った。


山本武には気になっている人間がいた。






「大丈夫」

ボールを渡されて立ち去っていく背中がいつもより余計小さく見えた。カシャカシャと音漏れが遠ざかる、栗色のやわらかい髪色が太陽に反射して眩しかった。

どんなに笑顔でいても、自分の孤独かんは拭えなかった。「そっかー」「面白いなー」そんな中身のない会話で周りの人間は笑ってくれる、孤立はしない。だが確実に何か回りとの違いが山本自身の周りを渦巻いていた。

「あのさ、あいつ。」
「ん、なんだよー」
「あれさ、なんて名前?」
「ああ、ダメツナ?沢田沢田、やめとけよあいつに触るとダメが移るぞー」

はははーいえてらーと、笑う山本の取り巻き。山本もつられるように笑った。馬鹿らしい、雑踏の中で山本はいつも一人だった。周りの人間の顔は全て一緒に見えた。野球をやっているときだけは、グラウンドにいるときだけは、そんな事から開放された気分で、小さい頃からやっていた野球だけは山本自身、本当の友達だと思っていた。悲しい奴、自分ですらそう思っていた。何も考えなくていい野球の時間が山本にとってかけがえのないものになった。

「・・・」

ダメツナの背中が丸まって、焼却炉から立ち去る姿に自分を重ねた。山本は綱吉から受け取ったボールを見つめた、やけに小さくて白い手だった。山本は野球帽を深く被りなおしてグラウンドに戻った。
机にかかれた死ね、の文字にあいつはすっかり馴れているんだろうか。いつまでも消えない綱吉の席に書かれたマジックの落書を山本は垂れる汗を拭いながら、考えた。
同時に俺は、絶対にたえられないと山本は思った。空を見上げて、このまま空に解けて消えてしまえたら、どんなにいいだろう。

「今俺が消えてなくなったら。」

きっとクラス全員、親父も泣いてくれるだろう。





「それでもあいつは泣いてくれねぇんだろうな。」


白球が空にたかく上っていくのを見ながら、まだ綱吉の後姿を忘れずにいた。




「ほんとあいつ、使い勝手よすぎだろーっ!」

ゲラゲラと五月蝿い声で、5限の数学から寝てしまったんだろう綱吉は目を覚ました。時計を見ると5時を回っていた。ゆるゆると鞄に机の中のものを積める。ガヤガヤガチャガチャ、教卓の上に座って、数人の生徒が話しているのを横目に教室を出ていこうとした。

「山本にくっついてりゃぁトラブルには巻き込まれねぇしな!」
「ギャハハ、あいつ、皆に利用されてんの気付いてねぇし!」

(……)

山本、綱吉の頭にはポツリとその名前が落ちてきたようだった。そのまま、何事もなかったように綱吉は教室から出ていった。

「あいつも、一緒なんだ」
(おれと)

まぁ状況は違うがひとりだと言う事はなんとなく解った。あんなにクラスの中心にいて、そこで綱吉を考えるのをやめた。iPodのスイッチを入れて内容なんて全く入ってこない音楽で世界との境界線を作る。

「可哀想な奴…って人の事言えないなぁ」

ポソリと呟いた言葉は夕暮れに飲まれていった。可哀想な奴、可哀想な、なんて虫酸の走る言葉だろう。ミンミンと鳴く蝉やジリジリと自分勝手に照り付ける太陽を細目で睨んだ。

「、あ。沢田!」
「山本くん。」

今日は、野球部の活動は無いのか。誰もいないグラウンドに目をやる。山本は小走りで駆け寄って綱吉の横にたった、綱吉は立ち止まり制服のポケットに入れた iPodの電源をおとす。

「どうしたの?」
「いや、特に要はないんだけどさ」
「そっか、じゃぁ…」
「一緒に帰っていいか?」

山本が帰ろうとする綱吉の腕を掴むと綱吉はその反対に持っていた鞄を落としてしまう、ガシャンだがぐしゃだか色んな音がして二人の間には沈黙が流れる。あんなに居場所が違った人間がいまこんなに近い場所で腕をつかんでいる、可笑しな話じゃないか。綱吉は掴まれた腕と山本の真剣な顔を交互に見た。

「いい、けど」
「やりぃ。じゃ、行こうぜ」

山本は綱吉の落とした鞄を拾い上げて先をあるいていった。





大嫌いな山本武と一緒に帰る事を何故了承してしまったのか、綱吉自身解らなかった。