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彼の選択、俺の見解

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彼の選択、俺の見解


「ハイジ。今日の夜、空いてるか?」

遠慮がちな声に振り返ると、そこには力なく眉間にしわを寄せたニコチャン先輩がいた。こんな顔を見るのも、何度目だろうか。
ちょっと待って下さい、と一言入れて頭の中のスケジュール表を手繰る。…今日の夜はカレーとサラダの予定だったが、豚肉の野菜炒めと冷や奴に変更しよう。神童と双子が遅くなると言っていたから、皿は二つに分けてよけておくか。
あとは、走る以外に予定なし。
「大丈夫ですよ。空いてます。あ、晩飯を作ってからになりますが、いいですか?」
あぁ、と言った先輩の顔はまたいつもの気だるげな、それでいて包み込むような温かさのあるものに戻っていた。
「悪ぃな。ハイジの分は外で奢るから。んじゃ、また声掛けるわ」
「はい。わかりました」
ニコチャン先輩はもうすぐ授業だろうに、別段焦った風もなく、のんびりとした足取りで歩いていく。
「授業、遅れますよ」
思わず声を掛けると、こちらを向くことも、ペースを上げることもなく、行って来るという声だけが残された。
がらがらと音をたてながら戸が閉まるのを見届けてから、小さく息を吐く。



先輩の用は十中八九相談だ。それもほとんど確信に近い予想では、ユキのこと。(テストだとか課題だとかそういう話の時は、必死さの現れ方が違うからだ)
ユキの方からも少し話を聞いておくか、と心の中で呟いて、その口実を作りに台所へ向かう。自分と彼の昼飯作りだ。今日はまだ一度も見ていない隣人はきっと、ヘッドフォンから鳴り響く音の波に溺れながら眠りの海に漂っていることだろう。
「焼きそばにするか」
そう声に出して動き出す。戸の向こうで、ニラが吠えているのが聞こえた。






たいていのことに大雑把で、来るもの拒まず去るもの追わず…な先輩は、一度その大きな懐に入れた者達にはどこまでも心を配れる人だ。煙草や口の悪さや生活態度が惑わすだけで、きっと根は情に厚い真面目な人。頼られれば面倒だ何だと言いながら、最後にはしょうがねぇなって言って笑ってくれる。できない約束はしないなんて器用な人ではないけれど、交わした約束には誠実で最終的には必ず守る、そんな人。見てないようで、見守っていて、無関心なようで、支えてくれている。
それが俺にとってのニコチャン先輩で、一言で言うなら、「揺らがない」。


けれど、誰にでも優しい先輩だけど、平等に優しいわけじゃない。
この人の“特別”に位置する人間は――

作品名:彼の選択、俺の見解 作家名:このえ