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みとなんこ@紺
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HYBRID RAINBOW

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僅かな夢の残滓に意識を引きずられているような。
そんな感覚に囚われ、彼はゆっくりと深く息を付いた。

細やかな砂を含んだ乾いた風がさらりと頬を撫でていく。
風に乗る僅かな水の匂い。どこかしら懐かしさを感じさせる、それ。
今、いる場所が何処なのかを知覚しようとするたび、それは逃げ水のようにすり抜けていく。今まで何かの夢を見ていて、そして今覚醒に向かう境を漂っているのだと、ぼんやりとした頭で考えた。
不思議な感覚だった。
身体の半分をまだ夢の中に置き去りにしてきたような。

・・・今までは、夢なぞ見ても、覚えていた事などなかったのに。

「――――・・・。」
ふ、と何かに惹かれるように穏やかに意識が浮上する。
乾ききった静謐な空気に混じる、少しの違和感。
こことは違う風が何処からか入り込んできている。
ただ、それは嫌な物ではけしてなくて。
暖かくて、柔らかい。
彼は目を閉じてまどろみに身を任せたまま、僅かな笑みを口元に浮かべた。

――――相棒?学校は終わったのか。さぁ、今日はどうする?

トン、と軽い足音が聞こえる。
心の回廊に降りてきたらしい。
一瞬、躊躇うような僅かな沈黙ののち、控えめに石の扉がノックされた。
『・・・もう一人のボク?入っていい?』
主の代わりに答えるように、静かに扉が開いた。



いつもと変わらない、圧倒されるような数の部屋と、法則を無視したように折り重なる階段と扉。
入り組んだ心の迷宮。王の名を隠す心の記憶の迷宮。けれど結局、役目を果たした筈のここは変わらなかった。
いつもと変わらぬ景色がそこにある事を確認して、遊戯は無意識に詰めていた息を吐き出した。
だが見慣れたそこに、いつも出迎えてくれる半身の姿はなく、あれ、と遊戯は辺りを見回した。
「もう一人のボク?どこー?」
『…こっちだぜ』
声は無数にある部屋の何処からか聞こえた。遊戯も慣れたもので、よっこらしょ、と小さく気合いを入れながら石造りの通路によじ登ると、声の聞こえた方へとトコトコ歩いていく。
一つだけ、誘うように開かれた扉。
遊戯は迷わずそれに手を掛けた。
「――――おかえり、相棒」
部屋の中央に置かれた石造りの椅子に深く腰かけて頬杖をついた、もう一人の自分が目を閉じたまま薄く笑みを浮かべて迎えてくれる。別にどうもしていない筈なのに思わず一つ安堵に似た息を付いて、遊戯は気を取り直すとただいまと笑顔で返した。
「ずっと眠ってたの?」
「少しうとうとしてただけのつもりだったんだが…そんなに時間経ってるのか?」
「呼びかけても返事がないからそっとしてたんだけど。もう夜だよ」
「…せっかく久し振りに杏子と2人きりの帰り道なんだから、邪魔しちゃ悪いなと思って引っ込んだ所までは覚えているんだが…」
「あ、あのねぇ・・・」
からかい混じりの口調で告げてくる彼はいつも通りだが、強い光を浮かべる瞳がまだ閉じられたままなのが少し気になった。
無意識なんだろうが、喩え他愛のない事柄でも、誰と話す時でも、話しをする時には彼は必ず視線を合わせてくる。最初は本当に真摯なその視線に見つめられるのが少し気恥ずかしく思った事もあったが、いざこうして目を合わさないまま会話を続けるのは、…何だろう、こう、落ち着かない。
「…もう一人のボク…」
「ん?」
「眠いの?ごめん、眠いんだったらボク遠慮するけど…」
「いや、そういう訳じゃないんだが…」
ついさっきまで寝てたからちょっとな。
その答えに、遊戯は僅かに眉を寄せた。

・・・最近、もう一人の遊戯はよく眠っている。
まぁ確かに以前から昼間は眠っていることが多かったのだが、眠り自体は浅いらしく、呼びかければすぐに答えてくれた。ただ最近の眠りは妙に深く、ちょっとやそっとでは目を覚まさない。お陰で何か言い知れない不安にかられて、無理矢理叩き起こしてしまう事度々、だ。そしてその度にもう一人の遊戯に宥められちゃったりなんかして。
(うわー・・・。)
思い出したらちょっと居たたまれない気がしてきて、ついでに恥ずかしくなってきたんですけど。

「…相棒?」
「え、何…って、わ!」
思わぬ至近距離に迫っていた深紅の瞳と真正面から目が合って、遊戯はほとんど飛び上がらんばかりの勢いで驚いた。
意識を飛ばしたほんの一瞬の間に、気配もなく傍に来ていたその当の張本人は、某社長の所為でオーバーリアクションには慣れているのか、はたまた別な事に気を取られているのか、挙動不審な相棒を全く気にした風もなく僅かに首を傾げている。
「相棒こそ大丈夫か?何だか赤くなってないか?」
いやもうお気になさらず。というか、部屋が暗くて助かった。
「・・・眠かったんじゃなかったの?」
「いやに拘るな。寝起きで頭がはっきりしなかっただけだぜ?」
かっこ悪い所を見せたと自然むくれたような口調になるのを、自分でも子供っぽいとは思うが止められない。しかもそうしてる内に、もう一人の遊戯はすっかりいつも通りの調子を取り戻してしまって、ついでに何だかとっても楽しげだ。
心の部屋ならではの荒技。ポン、とでかクッションを好きなようにお呼び出しして、手招いてくれる。
…何だか誤魔化されているような気がしないでもなかったが、これでようやく当初の予定の体勢だ。
もう一人の遊戯もいつも通り笑ってくれる事だし。遊戯は気を取り直してクッションの山にダイブした。
「…えへへ~やっぱ良いよね、コレ」
今度買ってベッドに置いておこうかな。
「そんなの買っておいたら、益々机から遠ざかるんじゃないのか?」
「・・・どーゆー意味、それ・・・」
ニヤリ、ともう一人の遊戯はちょっとばかり意地悪そうな笑みを浮かべてみせる。
「明日確か数学の小テストだったよな。勉強してたんじゃなかったのか?」
「う、覚えてたんだ…」
「そのテスト、結果が悪かったら再テストなんだろ」
う。
「しかも再テストの日程、皆で放課後に映画に行く約束をした日と重なってたよな?」
う、う。
「…いいのか?」
「いーの!煮詰まっちゃったから、ちょっとだけ気分転換だよ!…だいたいボクが再テストに引っ掛かっちゃったら、キミも映画見れないんだからね」
むー、とむくれて見せたら、もう一人の遊戯は今度はあっさりと降参、と両手を上げた。
「それは困るな、オレも楽しみにしてるから」
「・・・でしょ。ちゃんとやるよ。もう少ししたらね」
だからそれまでは付き合ってよ。
そうやって屈託なく笑う相棒にもう一人の遊戯は非常に弱い。やれやれ、と仕方なさげに見せながら、それでも楽しげに自分もぽふ、とクッションに沈む。

いつもいつも顔を突き合わせているというのに2人の間に話題のタネが尽きる事はない。
カード談義にはじまり、学校で聞いた話やら、友達から仕入れた話やら。今回は先週出たばかりの新作ゲームの話。身近なものからワイドな感じまで幅広く。
2人だけでする話は、時折取り留めもなく二転三転することが常だ。
しかも2人とも興味を動かされたものはこう、気の済むまで追求してしまうタチが無きにしもあらず。気付けばかなりの時間を費やしてしまったような気がする。
まだ後ろ髪を引かれている様子の相棒をせっついて、心の回廊まで見送りに来たもう一人の遊戯は一息ついた。
作品名:HYBRID RAINBOW 作家名:みとなんこ@紺