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きみの好きなひと ぼくのすきなひと

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鳩時計作りに忙殺されているドイツの背後から
「ドイツ―!仕事ちょうだい!俺んち、びんぼーになっちゃったー!」
信じられない能天気な声が響いたのは初夏の蒸し暑い日のことだった。

先の大戦が終わり、送り返したはずの元捕虜が何故またやって来たのか、ドイツは猛烈な眩暈に襲われた。
「帰れーーーーー!」
イタリアに背を向けたまま、鳩時計を作る手を休める事なくドイツは言葉を続けた。
「こっちもフランスのバカへ払う金を稼ぐのに必死なんだ!二度と来るな!」

そう言ったのに、

気が付けば、ご丁寧に紙幣作りの仕事を与えてやり、さらに宿まで貸してやっている現状。

いつの間にか、苦手だったはずのイタリア語が飛び交う事にも慣れてしまっている。
ドイツはそんな自分を呪っていた。

俺は何故こんなお荷物の世話をしているんだ。
多額の賠償金返済にハイパーインフレ、自分の家のことで手一杯だというのに何故だ?何故なんだぁああ!
ドイツの肩に重圧が圧し掛かる。

いや、このとき実際に圧し掛かっていたのは、背負っている荷物の重みだったのだけれど…

鳩時計と紙幣作りに明け暮れる日々
ドイツとイタリアはその合間に市場で食料の買い出しを済ませ家路に着いていた。

「重いよぉ ドイツ、ヴルストとジャガイモ買い込み過ぎだよ~」
「セモリナ粉とトマトとチーズを大量購入したうえに店頭のパンツェッタやプロシュートを買い占めたおまえが言うなっ!」
穏やかな午後の街角に響く怒号。
いつもならすぐにごめんなさいというイタリアの声が返ってくるのに、この日は違った。

「わぁ…!」
その声と視線の先には、小さな教会と祝福を受けながらそこから出てきた新郎新婦の姿があった。

「綺麗な花嫁さんだねぇ」
見惚れて呟くイタリアに、先を急ぐドイツはそっけなく言葉を返した。
「ドイツ娘はお前より逞しいから苦手だったんじゃないのか?」

「えー?俺そんなこと言ったっけ?あんなに綺麗な子だったらどこの国の子でも大歓迎だよー!」
歩みを止めないドイツに、イタリアは待ってよーと声を掛け言葉を続けた。

「そういえば、ドイツが好きな女の子のタイプ聞いてないや、どんな子が好きなの?」
「くだらん事を言ってないでさっさと歩け。早く帰って残りの仕事を片付けねばならんのだから」
「くだらなくないよー 可愛い女の子について話し合うのはものすごく大切なことじゃんか!」
「くだらんな。そんな事をだらだらと話している暇はない」

ぴしゃりと言い放つドイツの背中を眺めながら、イタリアはある考えに至った。

「女の子の話がくだらないなんて…お前、女の子に興味ないの?ひょっとしてそっちの方の趣味が…あるの?」

ドイツは唐突に投げかけられたとんでもない疑惑を払拭すべく、顔を真っ赤にして捲し立てた。
「そんなアブノーマルな趣味はない!好きな女性くらいっ…」
「えっ!? ドイツ好きな子いるの?」
イタリアの言葉に、ドイツはハッと我に返った。

「そっかぁ… ドイツ好きな子いるんだ どんな子なの?」
その問いに、甦る 微かな記憶と 声


 …Ich mag dich!…


「…お前には関係ないだろう」
その記憶と声を振り払うように、ドイツは淡々と言い放ち、再びイタリアに背を向け歩き出した。
えっ待って待ってよぉ!というイタリアの声は、その背中に届いていないようだった。
*****



「ドイツ具合わるい?」
夕食の席で、沈黙を破ったのはイタリアだった。

「ん? いや大丈夫だ」
「でも、ずっと具合悪そうだよ?時計組み立ててるときも、今も、ずっと黙ってるしさ」

元々寡黙なドイツだが、今日、市場から戻ってからの静かさは、明らかにいつもと違っていた。
イタリアが紙幣作りの最中に居眠りをしたときも、怒られるかと身構えていたがお咎めなし。
普段ならあり得ないことだ。

それに、
「ご飯だっていつもの半分も食べてないじゃん、ビールもおかわりしないし」
いつもなら水の如く何杯ものビールを豪快に飲み干すドイツが、食事の終盤になっても一杯目のジョッキを空けていない。
細かい事は気にしないイタリアだが、これにはさすがに心配になった。
心配しながら…普段あまりしない事だが、何故こうなったのかという原因を考えていた。
そして、考えた結果をおそるおそる口にしてみた。
「あのさ…ひょっとして、具合悪いんじゃなくて、俺が好きな子の事訊いたの、怒ってる?」
「!」
一瞬、場の空気がピンと張りつめた。

それを本能で感じ取ったイタリアは慄き
「ご、ごめんなさい!ごめんなさいっ!!どんな子なのかなってちょっと気になったから、訊いてみただけだったんだよ!もう訊かないから怒らないで!ホントにごめんなさい!許してぇえ!」

やばい!ドイツすごく怒ってるよこれ!うわー!どうしよう!どうしよう!!!

恐怖感でいっぱいになりギュッと堅く目を閉じたイタリアの耳に、ガタリとドイツが椅子から立つ音が聞こえた。
殴られる…!更なる恐怖に戦慄するイタリアの予想とは裏腹に、次に聴こえたのはドイツの静かな声だった。

「怒ってなどいない。少し頭痛がするだけだ。風呂に入ってくる」
ごちそうさまと言い残し、ドイツはイタリアの横を過ぎて行った。

パタンと、ドアが閉じる音を合図にイタリアはそっと目を開けて、安堵のため息を吐いた。
「よかったぁ殴られなかった」
身体の硬直を解き、椅子の背もたれに体重を預ける。

恐怖は過ぎ去った。
でも、 何だろうこのモヤモヤとした気持ちは。

ドイツは怒ってなかったし、殴られずに済んだ。よかったー!で良いはずなのに なんか、元気が出ない。

だって、
怒ってないって言ってたけど、まともに話してくれないし、態度が素っ気ないし、俺のことなんてどうでもいいって感じでさ …って、あれ?これじゃ俺やきもち焼いてるみたいじゃん。男が男にやきもち焼くなんて変なの!

イタリアは自分のおかしな感情にクスリと笑った。女の子じゃあるまいし、どうかしてるね俺。

ドイツが静かなのも、態度が素っ気ないのも、頭痛のせいだよ、うん。
イタリアはそう思い直して夕食の片付けを始めた。

でも…と皿を洗いながらイタリアは思う。
怒ってるんじゃなくて、頭痛のせいなんだとしたら、さっきのあの一瞬の感じはなんだったんだろう。

『俺が好きな子の事訊いたの…怒ってる?』

そう訊いた途端に流れた、何もかもを拒絶するようなあの固い空気。 
そして、市場帰りの道での冷たいドイツのひとこと。

『お前には関係ないだろう』

「関係ない…か」
自分で呟いたその言葉にイタリアは暗い気持ちになった。

誰にも話したくない位、その子のこと好きなのかなドイツは…。

あ、なんかヤバイ。このままだと、どんどん落ち込んじゃいそうだ。やめやめ!
イタリアは気持ちを切り替えて、次の皿を洗った。

うん。確かに俺には関係ないよ!
ドイツにはドイツの好きな子がいる。俺にだって好きな子いるもん!

…もう、いないんだ…

ふいに、
閉じ込められていた記憶の断片が甦った。