去り行く風のかたち
スコールの視線の低温さを気にも留めず。バッツは笑っている。
「良かった、なんだそのきたないてのひらは、って言われるかと思った」
あの羽根の事を言っているらしいその言を聞き流して再度尋ねると。答えは返らず、その代わりに左手を凄い勢いで握られた。そのまま引っ張られる。
「、ちょ、お、おい、」
バッツは、答える行程をすっかり飛ばして実行に移し、既に歩き出していた。
「バッツ!」
手を繋いで歩くなんて、全く何事だ
鼻歌さえ歌っているバッツはしかし振り返らない。
「だってさー、なんかこう、心配なんだよな。
スコールって、ついてきてんだよなって思い込んでていざ振り返ったら
消えてそうでさ。
それならもうこうやって手繋いどいた方が安心だろ?
俺、頭いいなあ!」
「な…………、そんな勝手な憶測で、だから、ちょっと、おいっ、」
何かの魔法でも使ったのかと思うくらい、バッツの手は強く、離れそうになかった。
ジタンを迎えに行こうというのにこの状態では。これを見たジタンは一体どんな顔をするだろう。それを予測する事すらスコールには耐え難い。
けれど
けれど、不意に、思う。
バッツの背をぼんやりと眺めていると。
伸ばせば届くと思い込んで、いざ近付けば、夢幻のように、風のように、ふわりといとも簡単にそのかたちを崩してしまうのでは無いかと。消えてしまうのでは無いかと。バッツの持つ自由さには鍵が無いから、遠くへ行ってしまうと二度と戻らないような、そんな気が不意にするのだ。
消えそうなのは自分の方だろうが
勝手に己に浸蝕しておいて、さっさと無責任に霧散してしまいそうな。
そんな事、させるものか
そう思ったからスコールは手を、払わなかった。そのままにした。
こうして手を繋ぐ以上、捕らわれているのは彼も同じなのだ。少なくとも今は、居なくなる事は無い。
ざまあみろと、スコールはその背へ、笑った。