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まだまだ終わっていなかった

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「ね、だから、夢精とかしたくないんで手伝ってください」
「オナニーを?」
「何でふたりいてオナるんですか、悲しいですよそれまじで」

 トムのドレッドを振ったり揺すったり弄びながら、甘えた口調でまた首筋に唇を寄せてから頬ずりする。ご満悦の態でちゅ、ちゅ、と軽い音をたてて吸いついてくる。

「まじで」
「うん、まじで悲しい。だから」
「……わぁったよ、じゃあ、すべぇな。そん代わり晩飯の用意おまえだからな」

 それくらいでいいなら喜んで、と笑う静雄の顔にあてられて、トムは手の甲で目の前を覆う。結局勝てないのだから早めに折れておくべきだ。そう言う自分自身の声も聞こえるが、我慢を覚えさせないと面倒なことになるだけだ、そう言う自分自身の声も聞こえる。
 どっちにしろってんだ、口の中だけで呟いて、トムはカラーシャツのボタンを外し始めた。

「あ、ポニーのままですよ、そのまましましょうね」
「……ハイハイ」

 トムさん、ポニーテールのまま乗ってくれたら絶対エロくていいと思うんす、あ、でもバックも良さそう、うなじ綺麗に見えるかな、煩悩と欲望丸出しの台詞を静雄が呟く。

「何がそんなに嬉しいのかほんと、よくわかんねぇ」
「トムさんがエロいと嬉しいんすよ、なんか間違ってます? 俺」
「いや、もーいい、もーいい」
「……?」

 本当に他意なく、嬉しそうな静雄のその顔で確かに嬉しいんだろうとトムは考えなおす。
 静雄が嬉しいなら俺も嬉しい。静雄が喜ぶのであれば、というのは我ながら青臭い考え方だ。
 結局のところ静雄の思春期はまだ終わっていなかったそうだし、自分の青臭い……、飾って言ってしまえば青春時代というやつもまだ終わっていないらしい。そう思いながら、トムは待ちきれずに寝室に向かっている静雄をゆっくりと追いかけた。
作品名:まだまだ終わっていなかった 作家名:iri