気のせい
俺は踏み出した足を、何とか留めた。
いや、別に、話しかけちゃいけないワケじゃない。
別に何でもない。
何でもない………んだが。
「遅かったな相馬」
「うん。コレがどこにあるのか分からなくってさぁ。探してたんだ」
「倉庫内の手前の箱にあっただろ?」
「それが無かったんだよぉ。もぉ、すっごい探しちゃった」
会話はいつも通りだ。
いつも通り………なんだけど。
雰囲気が甘い。………気がする。
「そっか、お疲れさん」
そう言って、佐藤さんは相馬さんの頭をポンポンとたたいている。
「うん。とにかく見つかってよかったよ♪」
相馬さんは佐藤さんを見上げ、少し頬を染めてはにかんだ笑顔を向けている。
…なんだろう、すっごい違和感だ。
今までと違う!
何かが違う!!
周りに漂う空気がピンクっぽい。…いや、気のせいかもだけど。
佐藤さんと相馬さんの距離が近い。…いや、気のせいかもだけど。
佐藤さんの視線が暖かい、てゆーより熱い。…いや、気のせいかもだけど。
相馬さんの笑顔がとろけてる。…いや、気のせいかもだけど。
佐藤さんがいつもより男っぽい。…いや、気のせいかもだけど。
相馬さんがいつもより色っぽい。…いや、気のせいかもだけど。
あの二人って、そういう関係…? ………気のせいかもだけど!!!!
もう、何も見なかったことにしよう。
俺は何も気付かなかった。
気付かなかった。
気付かなかっ…!!
…仕事しよう。
今俺は、何も見なかった。
佐藤さんが相馬さんに、ふいにキスをしただなんて。
俺は見なかった。