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THIS LOVE @6/27新刊サンプル

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 落し物。それは、彼のなくしたものについて、ぴったりの表現であるように思われる。というのも、ある朝、いつものように起き出して、ベッドから降り、右の足の裏を床につけた瞬間、彼はそれがすっかりなくなっていることに気づいたのだった。ぼう然とする。そうするより他ないのだといったふうに、ベッドの端に腰掛けたまま、彼は、しばらくのあいだ、目の前の壁をみつめ、天井をみあげ、寝室をぐるりと見まわしてから、自分の両脚を見下ろし―――それらはどれも一様に白かった。不気味なほどに―――、そうして、両手の指をひろげ、手のひらと甲、それに指の関節と爪のかたちを、確認した。なにか手がかりのようなものを、その手が握っているのだとでもいうように、彼は無言で、自分の指たちを尋問するように見つめる。しかし、大抵の場合においてそうであるように、彼の身体は、その落し物について、どうやら何も心当たりのないようであった。ぼう然とするしか、ない。
 
 
 
   ***
 
 
 
 折原臨也は人間を愛している。いや、愛していた、といったほうが、より正しい表現だろう。なぜなら、それは今ではもう、彼の中のどこにも見当たらないからだ。頭の中にも胸の中にも、そうしてもちろん、指の関節のわずかなすきまにも。