THIS LOVE @6/27新刊サンプル
「こういうところにいると、色んなことがよく分かりますね」
「分かったような気になってるだけさ」
臨也の口調は、揶揄するようなものではなく、それでいて、特に諭すふうでもなかった。ただ単に、自分の感想を飾り気なく述べただけなのだといったような、静かで、単調な喋り方だった。
「分かったような気になることを、人は、『分かった』っていうんじゃないですかね。自分以外のことについて、わかることなんて、きっとほとんどないですよ」。帝人は自嘲っぽく―――でもそれでいてどこか無邪気なふうに―――ちいさく笑った。「そもそも、自分自身のことについてだって、分かりきってる人間なんていないでしょうけど」
「君もそう?」
「さあ、どうでしょうね」
とぼけたように答える帝人に対して、臨也は吐息だけで笑ってみせた。それでもすぐに、彼は顔から表情を消して、再び表の通りを眺める。そのすっと通った鼻筋の、先端は、すっかり濡れてしまっている。
彼はなにごとかについて、深く考え込んでいるようだった。
作品名:THIS LOVE @6/27新刊サンプル 作家名:浜田