THIS LOVE @6/27新刊サンプル
その広々としたベッドの中で、彼女たちの兄は眠っていた。表情のすっかり消え失せた、白い寝顔を、少女たちはそれぞれベッドの両脇から見下ろしている。
クイーンサイズのベッドの中央で仰向けに横たわって眠る彼は、まるで、救助を待っている漂流者のようだった。黒く波打つシーツは夜の海のよう。その昏い海面の上で、両の手が不揃いに並べられている。
浅い呼吸を、遠い間隔で繰り返すたびに、薄い胸板がかすかに上下していた。耳をすませば、冷房の作動音のさなかに、小さな呼吸音を得ることができた。彼女たちはしばらくのあいだ、その音に聴き入っていた。それは彼の生命のしるしであり、また一方では、かたちをもたない絶望の象徴でもあった。
作品名:THIS LOVE @6/27新刊サンプル 作家名:浜田