ペーパー再録_5
ついでに顔にはデカデカとしまったと書いてあり、かつその色の薄い青の目はその辺を泳いでいる。
…別に何処かの豆のように身長にコンプレックスなぞないので、その辺は別に腹も立たないが。
「…面白いからお前、今度一度やってやれ」
非情な一言だが、本人に聞かれればその場で司令部破壊されかねないのを判って言っているんだろうか。
「…入院費、大佐持ちなんでしょうね」
「やられるの前提か。情けない…」
「アレ系の話で切れた大将の相手はマジで危なそうなんで遠慮します…」
無駄な会話をかわしてはいるが、上官の視線は逸らされることなくバインダーに注がれている。それが判っているからこそ余計に手を下ろせずにいた。
ハタから見ればさぞ妙な光景に映ったろう。だがここで引けば負け決定だ。ハボックなりに保身に必死だった。
このまま部屋から逃亡を図ろうとタイミングを見計らっていたのだが、しばらくバインダーを眺めていた上官は、今度はゆっくりと視線を合わせると、口元を歪めてふっと笑った。
・・・非常に見覚えのある笑い方で。
うわぁ。
「ハボック少尉?」
ほら、と手を差し出す。
何を要求しているのかは一目瞭然。
やたら楽しそうな目が何を言いたいかも以下同文。
・・・この人にはこーゆー手があったのを、こんな時に限って思い出すのだ。
上 官 命 令 。
縦社会である軍では絶対の伝家の宝刀だ。というか普段あまり振り翳す事のないそれを、無駄にこんな所で発揮しなくったっていいのに・・・。
「ハボック?」
往生際悪くゆるゆると下ろした手の中からバインダーを抜き取ると、彼は至極ご満悦な笑みを浮かべた。
…すまん、皆。オレと一緒に死んでくれ。
内心十字を切りながら、諦めて手を降ろそうとしたところで、司令部内に突如サイレンが鳴り響いた。
「!」
ほぼ同時に鳴り出した机の電話に手を伸ばす。
「私だ」
『市内で立て籠もりが発生しました!場所はトリスタ通りの宝飾店です』
「第2小隊を周辺道路の封鎖と市民の避難誘導に回せ。各小隊長は司令室へ」
『了解!』
内線を切ると、彼はこちらに視線を投げると、にやりと口元をつり上げて笑った。
「命拾いしたな」
それは全く普段通りの上官の姿で。
つられてハボックも同じような笑みを返した。
「ええ、まったく。…どうです?ここより外のが涼しいですよ、絶対」
「それもそうだな。私も出るか」
至極あっさりと答えて席を立つ。
先行ってますと言い置いて、早足で飛び出していった部下の後を追い、ゆっくりと部屋を横切る。
扉に手をかけた所で、彼はふと振り返った。
窓から射し込む光は先程までと変わらぬ白に染まっていたが、それに僅かに目を細めただけで。
直ぐに目を逸らし、背を向けた。
かつてとは違う、戦場でまた闘うために。