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何度でも抱き締めたいと願う

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公に出来ない悲しみを表すように、風が吹き荒れていた。
靡く髪を押さえて、今も残る声が何度も繰り返し再生される。
その声を届ける人はもう居ないのに、その一言だけがやけにリアルで。

「確かに、待てなかった。もう抱き締めることも出来ない。俺の言葉は嘘になったわけだ」

強い風は慟哭のような音で鳴いた。
ここは丁度空を塞ぎ始めた外殻の影になって薄暗い。
その二つが相まって、なんとも陰鬱な雰囲気だった。

「…なにが嘘つきだ。嘘にしたのは、お前だろう」

泣くことは出来なかった。
憤ることも、嘆くことだってしなかった。
落ち込む暇がないのは事実だが、鼓膜にこびり付いて取れない声があまりに鮮明すぎて、深く考えることが出来なかった。
こんな出来事自体、非日常過ぎて現実味がなさすぎる。

ただずっと考えていた。
俺の言った言葉が、彼の中でどこまで嘘だったのか。
今、どれだけ嘘になってしまったのか。

「何年後かなんてなかった。叶えることも、傍にいることも出来なかった。今はもう、待つことも出来ない」

けれど。

「ずっと、今だって。触れたいと、抱き締めたいと願う想いは、嘘なんかじゃない」

手を伸ばせばいつだって届くような気がしていた。
ずっと一緒に居られる気がしていた。
遠い場所にいても、きっと。

死んでしまっては、叶えることなんか出来るはずがないじゃないか。

信じたかったのは、俺だ。

「…それでもお前は、嘘つきって言うんだろうな。俺を」



この想いは、どこへ還ればいいんだろう。


持て余して、もう消化不良さえ起こしそうで。
それでも。

今までも。
これからも、きっと。


何度でも、抱き締めたいと願う。