二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

いつか空の下

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 



 ユイと話すのは疲れるけれどとても面白い。
何よりこいつの性格は色んな意味で愉快だ、いつか芸人になることを勧めてみようかと思う。
どういうリアクションをされるかは大体想像できるが。
きらきらした顔で話すユイの顔を見てぼんやりと俺はそんなことを考えていた。
ユイは俺を退屈させまいと、最近見た面白いテレビ番組や、文化祭に向けてバンド活動していることなんかを嬉々として話していたが、俺が別のことを考えているのを察したのか急に話をやめて改まって俺の目を見た。
「先輩、」
「うん?」
どうした急に真剣な顔になって?
ユイは何度か言いかけてためらっていたが、意を決したのかおずおずと口を開いた。
「あの、先輩は嫌ですか?」
「嫌って……何が?」
「私がそばにいるのが……ですよ」
「そんなことねえよ。お前すごく面白いし」
「……違います、そうじゃないんです、そうじゃなくて」
彼女は自分でも考えがまとまってないらしく頭をぶんぶんと振って考えこんで
「そうじゃなくて……なんで先輩はそんな目をしてるんですか?」
「……え」
一瞬ユイが言っている意味が分からなかった。
「私が話してるときも、なんか先輩遠いところを見てる気がするんです。まるで……まるでなんていうんだろ……すごい諦めたような目っていうか……」
「あー……」
俺は頭をぽりぽりとかいて言った。
「なんていうかな、ユイは俺と住んでる世界が違うんだなーって思ったんだよ」
「え?」
俺はユイに思っていることを正直に話してみた。
なんで彼女に話してみようと思ったんだろう?
もしかしたら俺は、あの日から感じていた俺の気持ちを誰かに話したかったのかもしれない。
「ユイはさ、今の人生が楽しくてたまらないんだろ?それをうらやましいなあーって思ってさ。俺はさ……俺は、この先お前みたいな楽しい人生を送ることなんてできないだろうし、多分それを楽しいなんて感じることもできないから」
「……」
ユイが何も言わないのを不思議に思いつつぽつぽつと続けた。
「ユイもさ、俺の噂くらい聞いてんだろ?どうせ俺の未来なんか希望なんてないし、ユイも俺なんかにかまってる暇あったらもっと別の……」
「先輩のばかああああああああああ!」
ユイの叫び声が耳をついたかと思うと、パアアアアアアンというやけにいい音が病室に響いた。
ユイが俺の頬を平手打ちした音だ。
的確に入ったのかやたら痛む。
「な……急に何すんだよっ!!」
「だって、だってえ……」
彼女の顔を見て俺は、はっとした。
ユイは泣いていた。


「……ええ、もちろん知ってますよ、先輩やったこと」
 ユイはリンゴをもぐもぐ食べながらぽつりと言った。
「でもそれがなんだって言うんですか?先輩がそういうことしたのにはちゃんと理由があるはずですよ。先輩は本当は優しくて素敵な人のはずですもん」
「ちげえよ、そんなこと……」
「違いません!」
「……はあ。じゃあお前がそう思うなら勝手にそう思っとけよ」
「はい!」
嬉しそうな顔でユイはうなずいた。
彼女の笑顔は本当にまぶしい。
思わず唇の端がほころんでしまいそうになる。
リンゴを伸ばそうとした手を止めて、ユイは決意に満ちた目で言った。
「……事故で倒れている先輩を見て、私なぜか思ったんですよ。助けなくちゃって。この人は私の運命の人だから助けなくっちゃって。なんでそう思ったのか私にも分かりません、けど確かにそう感じたから、私は先輩を助けたんです」
さすがに俺も思い込みも甚だしいな、などとつっこみなぞしなかった。
彼女の顔が、とても真剣だったからだ。
「だから、私、ずっと待ってます!先輩の怪我が完治するまで、ずっと通います!そうじゃないと私先輩の運命の人になれないと思うんで!」
「いいのか?完治には相当時間が掛かるみたいだぞ?」
「構いません!だって先輩はここにいるじゃないですか、ここで生きているじゃないですか!」
熱くなってきたのか、ユイはぐい、と顔を近づけた。
気持ちが高ぶったユイの吐息がかかるほどの近距離だ。
思わず俺はどきどきと鼓動が速くなるのを感じた。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ユイの演説は止まらなかった。
「先輩が未来に希望が無いんだって言うなら私が先輩の希望になりますから!」
「……くくっ、あはははは!なんだそれ!」
俺はたまらず笑い出した。
急に笑った俺を見て、ユイがぽかんとしているのが余計におかしかった。
なんだそれ。
まるで告白じゃないか。
「ばっ……馬鹿にしないでください!私、本気で言ってるんですからね!?」
「わかってる、わかってるってあはははは」
ううーっとユイはたこみたいに頬を膨らませていたが、やがて俺につられてくすくすと笑い出した。
小さな病室が二人の笑い声でいっぱいになった。
一通り笑ってユイが笑顔で俺に聞いてきた。
「ねえ、先輩。退院したら一番最初に何やりたいですか?」
「あーそうだなー……。体を思いっきり動かしてしてみてえかなあ」
「じゃ、プロレスしましょ、プロレスがいいですよ、プロレスプロレス!」
「え、いきなり重いな!?病み上がりでそれはきつくないか……」
「ええー……。じゃ、キャッチボールとかどうですか?」
「おお、いいなそれ、採用!」
窓からは少しずつ夕焼けが部屋をオレンジに染めていた。
どれくらいその時までどれくらい長い時間が掛かるかは分からないけれど。
それがいつになるかは分からないけれど。
いつか、俺はあの空の下でユイとキャッチボールをするんだ。
そんで元野球部の腕であいつをぎゃふんと言わせてやるんだ、ふふふ。
……なんてことだ、あいつの言った通り、あいつが俺の希望になってしまっている。
少し悔しいけど、少し嬉しいような、そんな不思議な気分だ。


「それじゃあ先輩また明日!その明日も、そのまた明日も、ずっと来ますからね!」
「ああ……」
元気よくぶんぶんと手を振る彼女の背を見送った。
彼女のせいで俺はまだ俺の人生を諦めきれなくなってしまった。
まったく、あのユイとかいう台風みたいな奴は余計なことをしてくれたもんだ。
彼女のことを思い出すと、俺はまた自然と笑みがこぼれた。



終わり


作品名:いつか空の下 作家名:にょご