いつか空の下
「ああ、なんだそういうことか……って」
いや、全然そういうことか……じゃないぞこれは。
平静を装うとして、内心の焦りが全く隠せていない俺の顔を見てユイは不敵に笑っている。
なんだかものすごく負けた気分で腹が立つ、ちくしょう。
「だって先輩のこと想ってないとこんなに通えるわけないじゃないですか」
「……確かにそれはそうだな」
「先輩が目覚まさない間私ずっと見守ってたんですよ、リンゴ剥きながらずっと。おかげて私が剥き続けた二週間分のリンゴが冷蔵庫にいっぱい入ってますよ。最初の方のやつはなぜか黒くなってきてますけど」
「うおおおやりすぎだよアホ!」
「え、だってあれ、お見舞いに来る人の義務じゃないんですか?」
「それはドラマの見すぎだっつの!」
やばい、こいつ相当なアホだ……
両手が自由なら頭を抱えていたところである。
「まあ、そんなわけで腐るほどリンゴあるんでちょっと食べません?果物は食物制限にかかってませんよね?」
「あー多分そうだった気がする。黒くなってないやつ頼むな?」
「はーい」
ユイはそう言って俺の口にリンゴを持ってきた。
「はい、先輩、あーん」
「……やめてくれないかなそういうの」
「ええーなんでですかー、あーん」
「くそっ、完治したらぶっとばしてやる……」
しょうがなく俺はユイの恋人ごっこに付き合って口を開ける。
何日ぶりに食べたか分からないリンゴを咀嚼すると、しょりしょりと心地よい食感が頭に響いた。
ほのかに甘い果汁もたまらなく美味しい。
点滴から栄養は供給されているらしいけれど、やっぱり実際に口を動かして食べる方が健康的というか、俺は生きてるぜー!って感じがする。
「ちくしょう、めっちゃうめえな。リンゴってこんな美味しいもんだったっけ」
「それは私が剥いたからですね、えっへん!」
「うん、それは全然関係無いと思うな!」
「……先輩もっと空気読んでくださいよ」
「へへっ、やなこった」
「うう……。まあ、その調子だと私が剥いた二週間分のリンゴもたいらげられそうですね!」
「いやいやいや……」