雨がくれた運命
下駄箱で途方に暮れる。
天気予報では雨なんて話は聞いていない。夏の夕立にしては勢いは弱いが、傘を差さないで帰るには微妙なパラパラ具合。
つまり、傘を忘れたのだ。いや自分のせいではない、だって天気予報のお姉さんはそんなこと一言も言っていなかったのだから。俺はたとえ相手がテレビの向こうでも好みの女性の話はしっかり聞いている。
(どうすっかな…)
弟の傘を持っていってしまおうか。帰宅部の自分と違って弟は部活中。夕立ならば彼が帰るまでには止むだろう。しかしもし降り続いた場合弟はどうするだろうか。持って行かれたことに気付いて連絡をしてくるだろうか。いや、友人のあのいけすかないジャガイモ野郎の傘に入れてもらって帰ってくるだろう。ということは巡り巡って俺があいつに借りを作ることになってしまうではないか。そんなことあってはならない。
(しかたねぇ、濡れて帰るか)
渋々このまま帰ることを決めて、下駄箱から自分の靴を取り出す。上の方から落とすようにしたら左の方がひっくり返ってしまい、面倒なので足で直してそのまま履いた。
廊下には笑い声や元々校庭で練習をするはずの部活が室内で筋トレなどをしている音が聞こえる。
運動神経が悪い方でもないし、気になる部活が無いでもなかったが、義務でもないのに自分の時間を削ってまで学校にいるということがピンとこない俺は、静かな下駄箱の扉を開けて外に出る。
その時やたらバタバタと響く音が聞こえて、何だろうと振り向くと俺しかいなかったここにもう一人の生徒が息を切らして立っていた。着ているジャージからしてサッカー部であろうその生徒は、何故か左手に似合わないものを握りしめていた。
「なぁ!これ使うたって!」
左手にあったのは、一本のビニール傘。それをずいと俺の方に差し出しながら微笑む。
「…は?」
俺はこいつのことを知らない。何故そんなやつが俺に傘をさし出しているのかさっぱり分からない。
「俺部活でまだ帰らんし、夕立なら俺が帰る頃には止むと思うねん。せやから使うたって?傘、持ってないんやろ?」
「あ、あぁ…」
「俺、3年D組のアントーニョ。アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド。明日返してくれればええから」
上履きのまま近付いてきて無理やり傘を押し付けると、そいつは来たときと同じように靴音を響かせながら去っていった。
俺はその場で暫く呆然としたがどうすることも出来ずに、渡されたビニ傘を差して帰ることにした。
天気予報では雨なんて話は聞いていない。夏の夕立にしては勢いは弱いが、傘を差さないで帰るには微妙なパラパラ具合。
つまり、傘を忘れたのだ。いや自分のせいではない、だって天気予報のお姉さんはそんなこと一言も言っていなかったのだから。俺はたとえ相手がテレビの向こうでも好みの女性の話はしっかり聞いている。
(どうすっかな…)
弟の傘を持っていってしまおうか。帰宅部の自分と違って弟は部活中。夕立ならば彼が帰るまでには止むだろう。しかしもし降り続いた場合弟はどうするだろうか。持って行かれたことに気付いて連絡をしてくるだろうか。いや、友人のあのいけすかないジャガイモ野郎の傘に入れてもらって帰ってくるだろう。ということは巡り巡って俺があいつに借りを作ることになってしまうではないか。そんなことあってはならない。
(しかたねぇ、濡れて帰るか)
渋々このまま帰ることを決めて、下駄箱から自分の靴を取り出す。上の方から落とすようにしたら左の方がひっくり返ってしまい、面倒なので足で直してそのまま履いた。
廊下には笑い声や元々校庭で練習をするはずの部活が室内で筋トレなどをしている音が聞こえる。
運動神経が悪い方でもないし、気になる部活が無いでもなかったが、義務でもないのに自分の時間を削ってまで学校にいるということがピンとこない俺は、静かな下駄箱の扉を開けて外に出る。
その時やたらバタバタと響く音が聞こえて、何だろうと振り向くと俺しかいなかったここにもう一人の生徒が息を切らして立っていた。着ているジャージからしてサッカー部であろうその生徒は、何故か左手に似合わないものを握りしめていた。
「なぁ!これ使うたって!」
左手にあったのは、一本のビニール傘。それをずいと俺の方に差し出しながら微笑む。
「…は?」
俺はこいつのことを知らない。何故そんなやつが俺に傘をさし出しているのかさっぱり分からない。
「俺部活でまだ帰らんし、夕立なら俺が帰る頃には止むと思うねん。せやから使うたって?傘、持ってないんやろ?」
「あ、あぁ…」
「俺、3年D組のアントーニョ。アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド。明日返してくれればええから」
上履きのまま近付いてきて無理やり傘を押し付けると、そいつは来たときと同じように靴音を響かせながら去っていった。
俺はその場で暫く呆然としたがどうすることも出来ずに、渡されたビニ傘を差して帰ることにした。