朱璃・翆
「違わないね。あなたはどうしても俺が気になって仕方がないんだよ?俺のものなんだから、別に悪い事じゃないだろ?大人しく認めなよ?なぜ認めようとしないんだ?」
「・・・僕は・・・誰とも付き合う気なんか・・・ない・・・。」
「紋章か?前にも言っただろう?俺にはそんなの関係ないんだよ。バカバカしい。」
「っバカバカしくなんか・・・。現に僕の大切な人たちは皆この中に・・・」
「・・・へえ。じゃあ、あなたはその大切な人らと永遠に一緒にいられる訳だ。それはそれで素敵だね?俺もそうしてもらいたいところだけど・・・」
「ばっバカな事をっ」
「でもそうなったらあなたを抱けないしね?それはごめんだ。」
「・・・お前は・・・ほんとに・・・」
翆はため息をついた。
そして暫く俯いて黙っていたかと思うと、不意に顔をあげ、俺を見てきた。
「朱璃・・・、お前、前に言ったな?欲しいものを得ようとするなら、対価を払え、と。」
「は?ああ、言った、な?」
「・・・僕がお前のものだといいたいなら・・・僕が欲しいというなら・・・対価を、払ってもらおう・・・。例え何があっても・・・死なない、と・・・。」
そう絞り出すように言うと、翆は真っ赤になってまた俯いた。
・・・なんとまあ、俺より年上のくせに、普段から硬い口調でくそ真面目なくせに・・・
なんて可愛らしいんだ?
今すぐ押し倒してしまいたいくらいだ。
俺はグッとその邪な気持ちを押さえ込んで言った。
「・・・払おう。いくらだって、あなたの為なら。俺は、死なない、よ?何があっても、ね?絶対、死なない。」
そう言って俺は翆の顔を持って俺の方に向けた。
翆はまだ真っ赤のままだ。
でも目は少し辛そうな感じだ。
今まで人と親しくするのをずっと恐れてきた孤独な人。
英雄と称されながらも、誰とも深く付き合わず、ずっと1人でいた人。
それでもずっと人を乞うていたはずだ。
誰か側にいてくれる人をずっと求めつつも、また失うのが怖くて避け続けてきた人。
大丈夫。
俺が、これからずっと側にいよう。
俺もずっと誰かを求めてきた。
俺という中身ごと受け止めて側にいてくれる誰かを。
それでも拒絶され、捨てられることを恐れて踏み出せないでいた。
俺とあなたはお互い求め合うことになっていたんだ。
「・・・翆・・・」
俺と翆は唇を重ねた。
初めて翆も俺を受け入れて答えてくれているような感じがした。
まるで初めてのキス・・・。
俺は名残惜しそうに唇を離す。
「・・・朱、璃・・・?」
「・・・続きはまた、後で、ね?ここは見物人が多いから・・・」
俺はニッコリと翆にそう言った。
翆はえっという顔で周りを見渡す。
周りでは赤くなって気まずげに顔をそらす者が何人も、いた。
離れている為、俺達の会話は聞こえていないだろうが、キスしている所はバッチリ見られていただろう。
「なっ・・・」
見る見る内に赤い顔が蒼白になっていく。
「いやあ、人がいるのは知ってたけどさあ、止められなくって。」
「うわーぁん、朱璃のバカっ。」
翆は今度はまた真っ赤になって逃げるように去っていった。
わお、何今の反応。
悪くないね?
俺はのん気にもそう思っていた。
それに、翆が俺のものだっていう、決定的証拠になっただろうしね?
そして俺はニッコリ天使の笑顔でそう考えていた。