朱璃・翆
「なっ、何言って・・・。ほんとにお前は・・・。」
「あなたは俺のものだからね?俺がしたいように玩んでもいいんだけど、さ。」
「冗談じゃない。体がいくつあっても足りない。」
「あはは、大丈夫、慣れるよ?どんな事だって耐えうる体になるように出来てんだよ、人の体はね。」
「無茶、言うな。」
「ふふふ・・・。俺ね?生まれたのはどこかの売春宿だったんだ・・・。どっかの遊女が、相手も分からないまま産み落としてさ、それも後で聞いたら俺が生みたくて生んだんじゃなくって、降ろすには手遅れだっただけだったらしいね?そんで生んだ後、暫くしたら肥立ちが悪かったのか、死んだらしいよ?・・・最低のアバズレから俺は生まれたんだって。でもとても美しい人だったらしいよ。見た目はね?だからさ、俺はそのまま育てられたって訳。」
朱璃が急に話し出した。ほら、前に言ったじゃん?抱かせてくれたら教えてあげるって、と笑って付け足した。
「・・・別に、言いたくない事を言う必要は、ない・・・」
「あは、大丈夫。あなたには知ってもらいたいと思ったから。・・・知った上で、俺を必要と思って欲しいんだ。」
「・・・そう、か。・・・でも、なぜ母親が美しい人だったからお前を育てるって事になったんだ・・・?」
「ああ、それはね?俺も間違いなく見目のいい商品になると分かったからだよ?」
ニッコリと朱璃が言った。
え・・・?
何て・・・?
商、品・・・?
「そんなっ・・・、だってまだ赤ん坊といってもいい歳だったんだろう・・・?」
「そうだ。でも俺はね?ああ、実は俺、自分の歳がよく分からないんだけどさ、多分3、4歳位から、客の相手をさせられていたからさあ。」
残酷なほどの美しさで薄っすらと微笑み、朱璃はサラッと言った。
僕は自分の耳を疑った。
ま、さか・・・。
「ふふ?やっぱ、引いちゃうだろ?こんな俺、さ?」
朱璃は僕を見た後、自嘲気味に言った。
僕は自分の体が悲鳴を上げるのも構わず朱璃を抱きしめた。
「・・・つ、辛かった・・・ろう・・・?なんて・・・事、を・・・」
僕は溢れてくる涙を抑えられなかった。
朱璃は思いがけなかったのか、そのまま固まったようにじっとしていた。
やがておずおずといった感じで僕に聞いてきた。
「あなたは、引か、ないの・・・?俺、は・・・誰が相手かも分からないアバズレが・・・欲しくもないまま・・・生まれた子供で・・・そしてずっと・・・ずっと色んな変態に玩ばれてきた・・・不良品、だ、よ・・・?」
「僕は、お前が・・・朱璃が、大好きだ・・・。例えどんな過去があろうと・・・愛し、てる・・・。第一、お前は不良品じゃない。僕を救ってくれた最高の人、だ。・・・本当に・・・本当に生まれてきてくれて、ありがとう・・・。」
僕はそう言って更に朱璃を抱きしめた。
今言った言葉に何一つ嘘はない。
僕の心からの、思い。
その時、ふと朱璃がなんだか震えているような気がして僕は手を緩め、朱璃を見た。
「・・・朱、璃・・・?」
「う・・・あ・・・」
あの、朱璃が、泣いて、いた。こんな美しい涙を、僕は、見たことが、ない。
僕はとめどなく溢れ流れていく涙に濡れた瞳に心からのキスを、した。