朱璃・翆
an encounter
つまらない。
争いも戦いも殺しも何もかも。
満たされない。
食欲、性欲、睡眠欲どれを満たしたところで渇きはおさまらない。
本当の自分なんてこんなものだ。何を見てもしても楽しくない。
でも。
「朱璃ー、行くよー?」
「はーい。今行くー。」
もうずっと演じ続けている。
あの人に捨てられてから、じいちゃんに育てられてから、ずっと。
もう本当の自分を忘れかかっているのかもしれない。
それでも、今ある自分が自分でない事は知っている。
時折頭の中で何もかも粉々になるような音が聞こえるような気がする。
多分すでに壊れかかっているのかもしれない。
違う自分を演じつつも誰かに気付いて欲しいとどこかで思っている。
気付いて、それでも受け入れてくれる誰か・・・。自分よりもずっと強い人。
そんな人いる訳ないと思いながらも、どこかで求めている。
この間ルカを殺った。
策とやらで大勢でよってたかって、だ。
出来るのなら二人きりで殺り合ってみたかった。
それで殺されるなら、それはそれで良かった。
ルカなら、自分の渇きをいやしてくれただろうか・・・?
もはや今となっては分からない。少し残念だった。
時折1人で抜け出してぶらっと歩いてみる。
場所が悪いと敵が現れ、有無を言わさず襲ってくる。
挨拶もなしかい?
そっちがそうなら、こっちも遠慮なくいかせてもらうよ?
1人の時だけ持っているナイフを取り出す。
気付けば死体の山。
癒されない。
耳鳴りがする。
っ壊れ、そう、だ。
「翆。久しぶりだな。」
ビクトールが何か話している。
バナーの村。
たまたま立ち寄ったら自分に似た格好をしたガキに、ルカを倒した英雄がいると言われた。
別にどうでも良かったが、そのガキがいう場所に、腐れ縁の2人に連れられて来てみると少年が釣りをしていた。
腐れ縁の2人はその少年に話しかけていた。知り合いなんだろう。
「朱璃。紹介する。翆だ。トランの英雄だぜ?」
トランの英雄?
ああ、3年前の。
見ると黒髪をバンダナで包んだとても綺麗な顔をした少年がこちらを見ていた。
「あ、初めましてぇ。僕、朱璃って言いますー。よろしく?」
ニッコリ微笑んで言っておいた。
「ああ。翆だ。」
翆はいとも簡潔にそう言った。
こっちは笑顔で言ったってのに無愛想な奴だ。
たいがいの奴はこの笑顔に釣られるもんだがな?
面白い奴だ。そう思った。
翆とはそのまま会う事はないかと思っていたが、結局仲間とまではいかないが協力してくれることになった。
周りがそう勧め、翆はどっちかといえば渋々といった感じだったが。
それにこっちはと言えば、どうでも良かったので周りに合わせただけだが。
だが城に戻るまでにはかなり彼に興味をひかれた。
翆はかなり強い。
それはそうだろう。
なんといってもあの英雄だ。弱い訳がない。
しかし自分も、もしかしたら敵わないかもしれない。一度手合わせしてみたいと思った。
あと、無愛想なくせに、とても人に気を使っている。
何となくそう思った。
たしか前の戦争では大切な人達を沢山失ったと聞いている。
死神と呼ばれる紋章のせいだとも聞いている。
そのせいではないだろうか、本当はとても寂しがりなくせに人をあまり寄せ付けないようにしている風に感じた。
・・・面白い。
なぜかそう思った。
こんなに人に興味を持ったのはあの人以外では、初めてかもしれない。
翆には一応部屋を用意したが、基本的には自分の家に戻るつもりのようだ。
「まあ、せっかく城まで来てくれたんですし、今日はゆっくりしていって下さいよー。あ、一緒にレストラン行きません?一緒にお茶、しましょ?」
ニッコリと翆に言った。
翆はコクッとうなずいた。
案内してレストランでお茶と茶菓子を用意させる。
・・・どうやら甘いものが好きらしい。
恥ずかしいからか隠そうとしているが、この俺が見逃すわけがない。
焼き菓子を目の前にした翆の目の輝き。
ふふ、甘いもの好き、ね?覚えておこう。
「翆さんはぁ、大人しいんですねぇ?あんなにお強いのにー。」
「・・・あぁ・・・。」
「良かったら今度ぉ手合わせして貰えませんか?あなたとやり合ってみたいなーって思ったんですよー。」
「・・・別にいいけど・・・。」
「?どうか、されたんですかー?」
なんだか不可解な事でもあるのかと聞いてみた。
「・・・いや、別に、いい。」
「そうですかぁ?なんか気になる事があるんなら、遠慮なく言って下さい?」
可愛く首を傾げて言ってみた。
たいがいの奴なら俺の見た目と口調にだまされて何でも打ち明けたくなるようだった。
俺は外見は悪くない。
むしろかなり上等の部類にはいると昔からよく言われていた。
茶色と金色の混じった髪と瞳。
白い肌。
小柄だがスラッとしたしなやかな肢体。
男にも女にもうけがいい。
本当に小さな頃はそんな自分を心底恨んだものだったが、今は最大限に利用している。
「・・・だったら言うが・・・」
ほら、こいつも騙されるくちだ。
どいつもこいつもバカばかりだね?
「・・・何なんだその喋り方?」
「・・・は?」
なんだって?なんだこいつは・・・?
「何でわざとそんな喋り方してるんだ?気持ち悪い。」
誰も分からない。
誰も気付かない。
誰も知らない。
・・・皮を被った俺。
でも皆がその皮を好いている。
俺の、皮を・・・。
「・・・何で隠そうとしてんだ?気持ち悪いから普通に話してくれないか?」
・・・誰も・・・
「ふふ・・・くくく・・・」
「?」
「くっくっく・・・あっはっははは。」
「何だ?大丈夫か?」
「あー可笑しい。ああ、勿論大丈夫だとも。ふふ、何だ、バレたのか。」
俺は普通に、そう、いつも頭の中で話しているように声に出してみた。
表情も取り繕うのを止めてみて、ニヤッと笑いかけた。
そう、これが・・・俺。
そうだ、俺、だ・・・。
「何だ普通に話せるんじゃないか。作ったような顔つきでもなくなったし。別に猫被る必要なんかないじゃないか?そのままでいいじゃないか。」
耳鳴りが止む。
心が、軽く、なる。
なぜだか自然に笑えてくる。
「ふん、被っていた方が万事うまくいくもんだからな。地の俺は、あまり褒められた性格じゃなくてね?」
俺はニヤッと笑って言った。
翆はバカバカしい、と呟いた。
ああ、ほんとにこいつは興味深い。
「まあこんな俺だけどさ、・・・・これからもよろしくお願いしますねぇ?」
「お、2人ともこんなとこにいたのかよ。」
ビクトールがやって来て言った。
俺はニッコリと微笑んで素早く被ってみせた。
翆は呆れた顔でため息をついていた。