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朱璃・翆

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confession



「翆さぁーん。」

朱璃が向こうから走ってやってきた。

透き通るような髪、目、肌。
小柄でしなやかな肢体。
走ってきた為、ほんのり上気した頬。

どれをとってみても皆が思わず見惚れてしまうような少年・・・。
そしてにこやかに向ける笑顔。
可愛らしい口調。
誰もが抱きしめたくなるような・・・少年・・・。

「何か用か・・・?」

僕はちらっと朱璃を見ると、そう言った。
この少年はまたニッコリと笑って答える。

「いえ、特に用はないんですけどォ、お菓子、また焼いたんですよね?翆さんに食べてもらおうと思って。いかがですかぁ?」

そう、確かに見惚れるような外見、可愛らしい様子で話す様だが、それは僕には通用しない。
逆になぜ皆が見抜けないのか不思議で仕方がない。

でもこの朱璃は侮れない。
この猫被りは僕が甘いものが好きだと早々に見抜いていて、それからは事ある毎にそれを餌にしてくる。
そして、それを分かっていながらも、僕は甘いものにつられて、ついつい付いて行ったりしてしまう。今もそうだった。

「・・・食べる・・・。」
「良かったあ。じゃあ、用意してるんで、僕の部屋来ません?」

朱璃はよく僕を自分の部屋に呼ぶ。
もしくは僕の家や用意された部屋に来る。

理由は多分分かっている。
おそらく地を出して楽だからだろう。
でも餌に釣られている僕は大人しく付いて行く。

部屋に入ると案の定朱璃の話し方が変わった。

「今回は中々の出来なんだ。俺も腕が上がったよなー?」

顔つきだって変わっている。
普段猫を被っている時はにこやかな(僕にとっては胡散臭いが)笑顔でいる事が多いが、まず目つきが違う。
瞳の色は変わらず美しいのに、人をバカにしたような冷めたような、なんともいえない目になる。
ニヤッと笑うことはあるが、冷たい表情。
ただなまじ顔のつくりが良い為、例えるなら、そう、人を誘惑し虜にして魂を刈る悪魔のような感じといえばしっくりいく。

「なんだよ、人の顔ジロジロ見て?俺に見惚れてる訳?惚れちゃった?」
「ふざけるな、そんな訳ないだろう・・・?」

ニヤッとそんなことを言ってきたので即座に否定した。

でも朱璃の作る菓子には惚れた。
もともと料理は得意なのか(料理対決などといった事もやっているらしい)、器用に色々な菓子を作っては僕に持ってきたり呼びつけたりしてきた。
そしてそれらはいつもとてもおいしかった。

「ねー?おいしいでしょお?」

今のように僕と2人の時でもわざと作った口調で喋る時がある。
しかし顔つきは地のままだが。

「その喋り方、ほんとに気持ち悪いからやめてくれ。てゆーか、なんで猫被る必要があるんだ・・・?」
「ふふ・・・。前にも言っただろ?地の俺はあまり万人受けしないんだよ。猫被ってた方が世渡りは楽だって。」
「・・・世渡りが楽でも、お前が楽じゃないだろう・・・?」

そう言うと、朱璃は一瞬ピクッとしたようだったがこちらを見て笑い出した。

「くっくっ・・・あははっ。そうかも、な?くっくっくっ・・・」

なにが面白いのか、しばらく肩を震わせて笑っていた。
僕はついていけない、とばかりにため息をついて、手作り菓子の続きを堪能した。


それからも事ある毎に僕は菓子に釣られた。

「暫く家でゆっくりするから・・・」
「そう、じゃあお菓子作って持って行きますよ。」

ある日帰り際、最近家でゆっくりしてないなと思ってそう言うと、朱璃がニッコリとそう言った。
それじゃあ変わらないじゃないか。

「いや、来なくていい。僕は1人でゆっくり本でも読もうと思ってるから・・・。」
「別に邪魔しませんよ?貴方はゆっくり本読んでくれてかまいませんし?」
「でもお前がいるんじゃ独りでくつろいだ気がしない。」
「そうですかー。残念だなー?今度はフィナンシェに挑戦しようと思ってたのになー。あれ、美味しいですよねー?ほんと、残念ですねぇー?」

今朱璃の顔は僕にしか見えていない。

周りにいる人達は、まあ特に僕らが何を話しているかは聞こえていないだろうが朱璃がなんだか残念そうにがっかりしている様子は分かるだろう。

でも。

朱璃の顔はちっとも残念そうではない。

どちらかというと例の悪魔のような表情で僕を見ていた。
まただ。
餌をぶら下げてきた。
今度こそ、釣られない・・・でも・・・フィナンシェ・・・。

「・・・別に・・・そんなに・・・来たけりゃ・・・くれば、いい・・・。」
「あは、じゃ、そうしますねえ?よーし、腕によりをかけておいしいのを作りますよー?」

口調はかわいいが顔つきはニヤッと悪魔の微笑み。

僕はまた負けた・・・。

じゃあまた明日、とニッコリ言う朱璃を尻目に僕は城を出た。
ため息をつく。
なぜだろう。
なぜ朱璃は僕に付きまとうのだろう。
わざわざお菓子という餌をぶら下げてまで。
不思議で仕方がない。
別に僕に付きまとわなくても、あいつなら逆に周りが放っておかないくらいだというのに。
地が出せるからか?
でも他でも出せばいいだけの話ではないのか?
万人受けしないと言っているが、別にそれでも構わないと思うのだが・・・?

少なくとも僕はあのうそ臭い猫被りの朱璃よりは本来の朱璃の方がいいと思うのだけども。

何をそんなに恐れているのだろう。
僕には、朱璃が本当の自分を出して受け入れてもらえないのを恐れているとしか思えない。
だからといって僕がそんな事をいちいち朱璃に聞く権利などないが。

・・・それに、僕は他人に深入りするつもりもない。
だからこんな事考えても仕方ないのだけれども。

そもそも朱璃が僕に付きまとってくるからだ。
僕はまたため息をついた。
作品名:朱璃・翆 作家名:かなみ