朱璃・翆
「おーい、いい感じなのは大変結構だけど、それは2人きりの時まで我慢してほしいな。僕が可哀想だよ。」
「あっ、悪い、ファル。」
「ご、ごめん、ファル。」
「あはは、いいよ。うん、嬉しいな、やっぱ。ファルって君たちに呼んでもらえるのは。」
朱璃は改めてファルーシュに向き直った。
「その、ホント悪い。俺、お前の事、友達としてなら・・・好きだ。」
「うん。分かった。いいんだ。朱璃の事、好きだけど、友達でいてくれるので、いいよ。そうしたら翆さんとも友達でいられそうだし。僕、君達と仲良くなりたいから。あ、でも翆さん、さっきの件だけ、許してくれるよね?」
ファルーシュがニッコリと言った。
翆はうっとなったが渋々頷いている。
朱璃は何だという顔をした。
「あのね?試そうって話になった時、僕の言う通り絶対朱璃が翆さんを裏切らないってなったら、僕は諦める代わりに1度だけ朱璃とキスさせて欲しいって言ったんだよ。」
「なっ何て約束してんだ!?」
「・・・ごめん。・・・だって・・・そうなったら・・・ファルだけなんか辛い思いする訳だし・・・」
俯いてぼそぼそと翆が言った。
朱璃は片手を顔にあてた。
「じゃあ、いいかな?」
「え”っ・・・その、い、今!?」
焦る朱璃。ファルーシュはニッコリとした。
「そうだよ?だってとっておきにしたらその間翆さんやきもきする訳だし、翆さんのいない所でするっていうのもかえっていやでしょう?翆さん。」
翆は憮然とした顔で、でもコクッと頷いた。
「で、でも俺がやりにくい・・・」
「なぜだ?気にせずやってくれ。」
「ほら、翆さんもこう言ってる事だし、ね?君からしづらいなら僕からするよ。」
そう言うとファルーシュは朱璃を抱きしめ口づけた。
「んっ!?」
翆は顔を逸らし目を瞑っていたが、どうも一向に終わらない感じがしてそっと2人を見た。
「ちょっと、い、いつまでやってんだ!?」
ようやくファルーシュが朱璃から離れた。
朱璃は珍しく赤くなって口を押さえている。
ファルーシュはニッコリした。
「ちょ、ちょっとファル。い、いくら僕がいいっていっても、何それ。そんな、のっ濃厚なのって!い、糸、糸ひいたよね?今っ。」
翆は真っ赤になってファルーシュに抗議した。
「あはは、だって最初で最後だし。でもやっぱ朱璃ってキスも上手だね。いいなあ翆さん。」
「い、いいなって・・・何・・・。!!っていうか上手って、朱璃!?お前まさかその気になって・・・」
「え?い、いや、その・・・えーと・・・」
「うわーん、朱璃のバカーっ」
棍がふられ、朱璃はとっさに逃れた。
攻撃をうけたところを見ると、見事に床がぼろぼろに崩れており、朱璃は真っ青になって顔が引きつった。
「あはは、まあまあ翆さん、これきりなんだし、ね?でも朱璃がその気になってどうしてもって言うなら僕はいつでもOKだけどね?」
翆の光った目を見て青い顔で引きつったまま朱璃が答える。
「い、いや、金輪際遠慮します・・・。」
キスの上手だったファルーシュに、ほんの少しだけ勿体無いな、などとそっと考えた朱璃はその考えを慌てて引っ込めた。
「でも、これで僕も気が済んだよ。・・・明日には帰ろうかな。」
「え?そうなのか?でも、どうすんだあんた。」
「うん、とりあえず君には既に決まった相手がいると報告するよ。勿論悪く言うつもりはないよ。僕だって争いの元は好まないからね。それに君達の事は本当に好きだから。」
「・・・そう、か。ありがとう。でもあんたまた別の奴に・・・」
「うん・・・。でもさ、リムね、好きな人いるんだよね。僕の下で働いている奴なんだけどさ。そいつも多分リムの事好きだと思うんだ。お互いそうじゃないって風にしているけど、ね。だから僕、この2人を今までは見守るだけだったんだけどさ、僕の為にも早々にくっついてもらおうと思う。女王が結婚すればもう僕には無理に縁談の話はこないだろうし、騎士長の座もそいつに譲れるから僕は自由になるしね。そうなったらまた遊びに来ていいかな?」
「「勿論」」
2人が声をそろえて言うと、ファルーシュはニッコリ笑ってありがとうと言った。
そうして翌日にはファルーシュとリオンはファレナへと帰っていった。
「お疲れ様でした。まあ上手くやったのでは?」
「うるさいシュウ。お前は策略だらけで俺はうんざりだ。」
「ふふ。でもまあ普通に仲良くなれて良かったではないですか。」
「・・・なんで何もかもお見通しなんだ?気に食わないな。こんな事見通すより国の将来でも考えてろよ。」
「勿論、私はいつだって考えてますよ?」
「チェッ。俺、ちょっと休憩。」
ニッコリと企むような笑顔で送られて朱璃は執務室から出た。テラスに行くと翆がお茶を飲んでいた。
「朱璃。仕事はどうした?」
「休憩だよ。」
「そうか。・・・あの、今回の事・・・」
「う・・・。ほんと悪かったよ翆。俺、ほんとあなただけだって。ほんとだよ?」
「・・・分かってるよ・・・。その・・・僕が謝りたくって・・・。僕、ほんとに嫉妬ばかりして・・・ごめん。・・・僕・・・」
「あーやっぱ可愛い翆っ。」
赤くなってる翆に朱璃はギューッと抱きついた。翆は赤くなったままうわっと叫び、思わず棍で朱璃を殴ってしまい、あわてて朱璃を介抱していた。