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恋ごころってやつは/復讐された恋心

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 目が合った、と思うのはとても簡単な事だ。相手が見ている方に自分が立てば良いのだから。
 そうでなくとも己がじっと相手を見ていれば、ふとした瞬間に視線がかち合うというのはあり得る話だ。
 実際それが、本当に目があったのかどうかは別として。
 不毛だな、とギルベルトは思う。見ていれば相手がどこを、誰を見ているのかなんてすぐにわかることだ。ばかぁ! と叫んですぐに涙目になる男の、ふとした瞬間の真面目な表情をカッコいい、なんて思ってしまう自分が恥ずかしい。
 向こうは自分を見ていない。それは、初めて出会った時からわかりきっていることだ。今も昔も、男の心を占めているのはやはり、弟として愛し育てて来た彼の大国だ。
 自分のことなど、きっと、腐れ縁の髭の友人、くらいにしか認識していないだろうし、覚えていたとして精々、昔金を出してやった相手、くらいのものだろう。何せ今の己は亡国だ。ちゃんとした国ですらない。
 不毛だ、とギルベルトは繰り返す。実る事のない想いはただじっとりと心の奥底に絡み付いていて、こうして顔を合わせる機会があるたびにその蔦を伸ばし、全身に絡み付いて行く。
 きっともう、無理矢理引き剥がそうとしても遅いのだ。終わるときがくるとすれば、己が消えるときか。
 獲物を見つけたと言わんばかりの、その爛々と輝く翠の瞳に魅入られた。すぅ、と目を細めて口唇を釣り上げる表情に背中がぞくりとした。それらは全て全盛期のことではあるが、その時己の心は囚われてしまったのだろうとギルベルトは思う。
 言葉を交わした事はそれほど多くない。それでもいつの間にか、こんなにも。

「おい」
「……うおっ!?」

 アーサーの方へ視線を固定したままぼうっとしていたギルベルトは、いつの間にか接近していたアーサーに驚き、ガタン、と椅子から滑り落ちる。何やってんだ馬鹿、と呆れたアーサーにぐい、と腕を引っ張り上げられ、ギルベルトは床から立ち上がる。

「ぼさっとし過ぎだろ。会議中なんだ、亡国って言っても一応参加国のひとつなんだから話はしっかり聞いとけよ」

 弟に怒鳴られても知らねえぞ、と僅かばかり顔を顰めるアーサーにああ、と頷きつつ、明らかに挙動不審な己に内心舌打ちをしつつ、ギルベルトは椅子に座り直す。

「どっか打ったのか?」

 己の失態に思わず顔を顰めたせいか、アーサーがひょい、とギルベルトの頭に手を伸ばす。あ、触られた、と思った瞬間、体は素直に反応した。かぁっ、と音を立てそうなくらい頭が沸騰して行くのが分かって、しまった、とギルベルトは思う。

「ど、どうしたんだよお前、やっぱりどっか打って……」
「なんでもねえ! 悪い、会議続けてくれ!」

 ガタン、と再び音を立てながら勢いよく椅子から立ち上がり、ギルベルトはアーサーの腕を振り払うように会議室の扉へと走る。アーサーだけでなく、おそらくきっと他の国家からも不審に思われただろう。
 けれどあれ以上、あの近さにいるのはきっと耐えられなかった。頭が沸騰するだけならいいが、とんでもないことまで口走るのだけは避けたい。
 馬鹿だ、と自分でも思うのだ。昔の淡い気持ちなど、その時葬り去ってしまえばよかったのだ。
 淡い気持ちで済まされないほど、この身を蝕んでしまう前に。




「恋ごころってやつはちゃんと葬ってやらないと復讐してくるのです」title by 確かに恋だった