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恋ごころってやつは/復讐された恋心

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 見られているのはおそらく気のせいではないはずだ。そうでなければこう何度も視線が合うはずもない。
 ふと視線を感じて振り返れば、かならずその紅い瞳と目が合う。だというのに向こうは知らぬそぶりでふい、と視線を逸らす。
 それが一度だけなら偶然か、とも思えるが、もう何十回とこんな状況が続いている。
 言いたいことがあるならはっきりと言えば良いのだ。それこそ一昔前の自分なら全部知るか、と切り捨てたかもしれないが、あの頃と今では違う。
 思い出してみれば支援される側だったというのに当時格上とも言えた己を真っ直ぐ見つめ返し、対等に渡り合おうとする姿は好ましかった。己に怯える国が多かっただけ、尚更。
 あの頃に戻りたいとも、戻れとも言うつもりはないが、昔の印象の方が強いのも確かだ。今でこそ全て弟に任せて引っ込んでしまっているが、大勢の前で声を張り上げ旗を掲げてみせたその姿は、その旗に描かれた黒鷲のように気高く、美しかった。
 だからこそ、今のように曖昧な態度を取る相手に苛立つ。言いたい事があるならはっきりと言えば良いのだ。

「おい」
「うわっ!?」

 くるりと振り向いて声をかければ、予想もしていなかったのかギルベルトがびくりと跳ね上がる。前にもこんなことあったな、と思いながら何か用かと問いかければ、ギルベルトはしどろもどろにいや、別に、何も……と答えた。
 何もないわけがないのだ。ぼうっと見るにしたってひとの顔を眺めて何が面白いのかとアーサーは思う。

「何でもないってことはないだろ。それとも何か? 俺の顔になんかついてんのかよ」
「っ、気づ、いて……」
「あれだけ視線が合えば普通気がつくだろ」

 俺を馬鹿にしてんのか、と更に言葉を続けようとして、アーサーはギルベルトの異変に気がつく。俯いたその頬が、微かに赤い。

「ギルベルト?」
「なんでもねえよっ、い、っつ……!」

 どうした、と伸ばしかけた腕を避けようとしたせいで、袖のボタンに髪が絡まったらしい。柔らかそうな髪だから仕方ねぇか、とアーサーは小さく溜息を吐き、ちょっとじっとしてろ、とギルベルトを引き寄せてボタンに絡んだ髪を解きにかかる。
 元々短い髪だ、すぐにするりと解けたが、ギルベルトは何故か石のように固まったまま動かない。ギルベルト? と再度その名を呼びかければ、肩がびくりと震えた。

「調子でも悪いのか? お前、変だぜ」
「お、前が」
「あ?」
「お前が触るからだろ!」

 顔を上げて言葉を投げ付けるように叫んだギルベルトはそのままどこかへと走って行ってしまった。先日も見たようなギルベルトの行動に子どもかよ、と内心呆れながら、涙を浮かべて頬を紅潮させていたその顔が、どこか脳裏に焼き付いて離れない。

「クソッ……なんなんだよ、一体」

 胸にもやもやとしたわだかまりだけが残り、アーサーは小さく溜息を吐くと同時に決意する。
 今度こそ絶対にその原因を聞き出してやる、と。





「復讐された恋心はどこへむかえばいいですか。」前作タイトルリスペクト。