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シュガーレイズド&チョコレート

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 あやすように宥めるように聞いてみるけれど、ロイには答えがわかりきっていた。こんなに懐いてくれても、あんなに口汚く罵っていても、それでもこの子供は父親を慕っているのだ。すっぽかされたからロイでもいい、とは頷けないだろう。
 案の定、エドワードは頭を振った。
「…ドーナツ」
「うん?」
「ドーナツ、かって、ロイ」
 エドワードはようやく顔を上げ、きゅう、とロイのシャツを握りながら、一途に見上げてそう強請った。
「おやじは、さとうのかかったやつがすき」
 そして続いた言葉に、ロイは笑った。何のかんのといって、この子はいい子なのだ。
「砂糖のかかったやつだね。わかった。…そうだね。ドーナツを買って帰って、皆でお茶にしよう。博士ももうきっと、レポートが片付いて焦っているところだと思うよ」
「…おやじ、しごと、おわってるかな…?」
 不安げに問う子供の小さな頭を撫でて、ロイは苦笑した。「それは終わってるさ。エドのお父さんは、すごい人なんだよ」
 あんなのでも、とは心に秘めて、ロイは言った。するとエドワードはとても嬉しそうな顔になり、ま、まあな!とえらそうに答える。父親を褒められたのが嬉しかったのだろう。こちらがついつい笑顔になってしまうような、そんな愛すべき素直さだった。
 エドワードの涙をぬぐってやり、では土産を買って帰ろう、今食べているのは一緒に包んでもらおうね、そうロイが言って立ち上がったときだった。

「エドワードぉぉぉお!」

 店のドアを、可愛らしいカウベルの音を無残に蹴散らし開いてやってきた客がいた。黙っていればきっと立派な紳士のはずなのだが、いかんせん、動揺しきった顔と態度とまず何よりその大声がいただけなかった。
 壮年、というべきなのだろうか、均整の取れた体型のなかなかに渋い男は、黒髪の青年の膝の上で目を丸くしている金髪の子供を見つけると、エド!と叫んで突進していった。何事かと他の客も固唾を呑んで見守っている。ただひとり、青年だけが困ったように苦笑していた。
「エドワード、パパが悪かった、ごめんよ!」
「いだっ、…いたいいたいいたい!」
 がばっと子供を抱き上げるとぎゅうぎゅうと抱きしめ頬ずりする男に、当の子供から悲鳴が上がる。それにやはり苦笑して、ロイは立ち上がった。
「博士。…エドが痛がっています」
 助手の冷静な突っ込みに、博士はえ、と目を丸くして子供を一端引き離した。引き離してみれば、子供は青い顔をして息を荒くしているではないか。
「エドワード! 一体誰がこんな目に!」
「博士、落ち着いて」
 お前だろ、といいたい気持ちをぐっとこらえて、ロイは言った。そして、そうっとエドワードを取り返す。
「エド。…言った通りだっただろ?」
 ぐったりしてはいたものの、ロイの腕の中を父親のそれより安全だと判断したのだろう。ロイにしがみつきながら、エドワードはそっぽを向きながら頷いたのだった。

「納得がいかないよ」
 息子とそっくり同じ事を言うのは、ドーナツ屋の箱を手に、隣で息子を抱えて歩く助手を恨めしげに見やる男だ。彼には「アメストリス史上最高の頭脳」なんていうご大層な肩書きがあったりするのだが、…今のところただの親ばかにしか過ぎなかった。これに負けるその他大勢の人々がいっそかわいそうなほどである。
「わたしは父親なんだぞ? なのになんで私じゃなくて君がエドワードを抱っこしてるんだね」
 恨みがましい金色の目を見返し、助手は涼しい顔で笑った。
「残念ながら博士、親と子はいつか離れるものなのですよ」
 しれっとした物言いに、教授は目を吊り上げた。
「エドはやらんぞ、エドは!」
 この親ばかが、とは言わず、ロイは愉快そうに笑い、今はすやすやと寝息を立てる子供を、その子供が自分のシャツを掴む、ふにゃりとした小さな指を見つめた。
「まあまあお父さん、そうお怒りにならずに」
 ははは、と笑う助手に、教授は血管が切れそうな顔になって怒鳴った。
「お嫁にはやりません!」
 まだ五歳にもならないだろうとか、それ以前にあなたの子供はふたりとも息子です、なんてことは言わず、ロイはただ愉快そうに笑うだけだった。