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カイトとマスターの日常小話

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冬支度〜お鍋も恋しい季節です。〜









「蜜柑と、…今日は鍋にするか。オヤジ、白菜とそこの生椎茸、えのきと…長ネギくれ」
「はい。毎度!!こりゃ、おまけだ。美味いぞ」
おじさんはりんごを二個もくれた。それにマスターと僕はお礼を言って、八百屋を離れた。マスターは蜜柑一箱、それと野菜を買った。蜜柑の箱はマスターが、野菜の入った袋は僕が持つ。
「カイト、冷蔵庫に鶏肉とうどんあったか?」
「冷凍うどんが入ってましたけど、鶏肉はなかったなぁ」
「んじゃ、俺は豆腐を買ってくるから、お前、肉屋に行け」
マスターは豆腐屋へ、僕はお肉屋さんへと分かれる。
「こんにちは」
「あら、カイトくん、いらっしゃい」
店先に顔を出したのは人の好いおばちゃんだ。…僕は仕事で部屋に篭るマスターの代わりに家事一般、お買い物もするので、先の八百屋のおじさんともこのおばちゃんとも…この界隈の人たちとはほぼ顔見知りだ。
「鳥のもも肉300グラムください」
「はいよ」
お肉を包んでくれる間、僕は暫し、コロッケの匂いに気をとられた。…おいしんだよね。ここのコロッケ、外はさくさく、中はほくほくで…そんなことを考えてると、後から声がした。
「…美味そうだな」
「マスター!」
「はい。カイトくん、お肉。…あら、誰かと思ったら、冬くんじゃない」
マスターに気付いたおばちゃんが言う。…マスターの名前は「冬吾」さん。だから、このへんのひとはマスターを「冬くん」と呼んだり、「冬ちゃん」と呼んだりする。…それが最初、誰のことを呼んでいるのか解らなくて困惑した。僕にはマスターはマスターで、マスター=冬くんと言う図式がプログラムされてなかったから。今は大丈夫。「冬くんとこのカイトくん」って呼ばれても、?になったりしない。
「どうも。おばちゃん、元気そうだね」
「元気よう。今日はカイトくんと買い物?」
「鍋にしようかと思って。…あ、コロッケ、二つ頂戴」
「ありがとう。揚げたてだから、熱いよ」
手早く、おばちゃんはコロッケを包んでくれて、そのひとつを頂く。…ん〜、おいしい!!隣を見やるとマスターもはふはふ、コロッケを頬張っていた。
「ご馳走様。おばちゃんとこのコロッケ、やっぱ一番美味いわ」
僕より先に食べ終えたマスターが財布を開ける。
「あら、褒めても何もでないわよ」
嬉しそうにおばちゃんはそう言って、マスターにお釣りを渡す。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「ありがとう。また、来て頂戴ね」
「はい」
おばちゃんに手を振って、僕とマスターは帰途に着いた。






今日のお仕事は急ぎではないからと理由で、午前中だけ。はっきり言って、サボりだ。それってどうなのって思ったけれど、マスターと一緒なら何をやってもどこにいても嬉し楽しなので、この際、目を瞑る。…後で、大変な思いをするのは僕じゃないし。

家にマスターは早速、蜜柑箱を空け、食器棚の下から取り出した竹籠に蜜柑を盛って、こたつに潜り込むと、蜜柑の皮を剥き始めた。
「お前も食う?」
それを見てると、マスターがそう言うのでこくりと頷く。…蜜柑を食べるのは初めてだ。マスターの真似をして、皮を剥き、白い筋を取り、薄皮を剥く。
「…あ。美味しい」
オレンジ色の粒々が重なった実を口に含むと、甘酢っぱさが口の中に広がった。
「…こたつで食う蜜柑は、何で、こんなに美味いのかね」
二つめの蜜柑の皮を剥き始めたマスターが言う。
「…アイスも美味しいかなぁ?」
僕が言うと、
「美味いと思うぞ」
と、マスターが答える。
「…じゃあ、今日はあれを食べよう」
冷蔵庫にアイスを取りに行く。今日はリッチにダッツのバニラにしようっと。ミニカップとスプーンを手にこたつに戻る。
「いただきまーす」
蓋を開けて、フィルムを剥ぐ。ああ、フィルムの裏も舐めてしまいたいけど、意地汚いって言われるのは嫌だから、我慢する。それよりも、目の前のなだらかな表層をスプーンで掬う。
「…あァ、幸せ…」
口の中にバニラの甘さと冷たさが広がる。それにうっとりとする。
「………」
それを無言でマスターが見ている。…欲しいのかな?…うーん。どうしよう…でも、このアイス、マスターがくれたお金から出てるアイスだし…。
「マスター、あーん?」
スプーンでひと掬いしたそれをマスターの口元に運ぶ。マスターが驚いたような顔で僕を見た。
「…あれ?食べたかったんじゃないですか?」
「…あ?」
「僕のこと見てるから、欲しいのかと思って」
「いや。本当にアイス食ってるときは幸せそうだなって、思って見てただけだ」
「幸せですよ。はい、マスターにも分けてあげますね。あーん」
促すとマスターは仕方なく口を空けた。
「…甘っ」
「アイスだから、甘いの当然ですよ」
「…そうだな」
マスターは溜息を吐いて、僕の頭を撫でた。





 夕飯はお鍋。

 鶏肉、長ネギ、白菜、えのきに椎茸。お豆腐にうどん。糸こんにゃくと残り物の豚肉も入れて、マスターが作ったかつお出汁で煮込む。
「…そろそろ、いいかな」
マスターが土鍋の蓋を開けると湯気がふわりと立ち上がる。
「いただきます」
「いただきます」
んー。温かくて美味しい。
「ああ。やっぱ、こたつで鍋だよな」
うどんを啜り、マスターがしみじみ言う。確かに場所が違うだけで美味しく思えるし、食欲が進む。…って言うか、前はアイスだけ食べられたら幸せだと思ってたけど、こうやって色んなものを口に出来ることは幸せなことなんだなと思う。僕は人間みたいに食べ物を摂る必要がない。でも、こうしてマスターは僕にも朝昼晩、ご飯を食べさせてくれるし、アイスも食べさせてくれる。…ひとりだけ食べるのは味気ないだろって、マスターが言ってた意味が解る気がする。マスターと一緒に食べるご飯は美味しいし、アイスも美味しい。…マスターが会社勤めで毎日の帰りが遅いとき、食べたてたアイスは大好きなバニラ味だったのにちっとも美味しくなかった。
「カイト、肉も食え」
「あ、はい」
小皿に鶏肉と白菜を入れてもらって、まぐまぐ食べる。うん、おいしい。やっぱり、ひとりよりふたりがいいな。
「おいしいかったです。でも、出汁、残っちゃってもったいないですね」
鍋の中は空になり、出汁が残る。
「だな。…まあ、明日の朝、卵入れて雑炊すりゃいいだろ」
「いいですね」
後片付けを手伝う。お茶を淹れて、一服。マスターはまた蜜柑を剥いてる。…もしかして、マスターは蜜柑好き?
「マスター、お風呂、入らないと冷めちゃいますよ」
「…んー。…解ってけど、こう寒いと出たくないな」
「お風呂入れば、温まりますよ」
「…んー」
「ほら、早く!」
「解ったよ」
やっと重たい腰をマスターが上げる。…やれやれだ。




 マスターの後に僕もお風呂に入る。マスターが入れた入浴剤の桜の香りがふわふわする。…マスターも好きだよね。入浴剤入れて入るの。…まあ、嫌いじゃないけどお風呂洗うのが大変なんだよね。そう思いながら、パジャマの上にマスターがくれた赤いねんねこを羽織る。和室に戻ると、マスターはころりと転がって、ぬくぬくしながら寝息を立てていた。
「…もう。風邪、引いちゃいますよ」