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カイトとマスターの日常小話

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お正月です。





「…おはよう」

 朝も10時を過ぎた頃、ゆったりまったりマスターが起きてきた。

「おはようございます。…もう、十時過ぎてますけどね」

洗濯も掃除も済んでしまった。…基本的に僕は食事を取らなくても大丈夫なので、朝食はマスターが起きてからでいいかと思っていたらこんな時間になってしまった。
「…まあ、いいだろ…っと。…カイト、」
「はい?」
「あけましておめでとう。…今年もよろしく」
マスターが唐突にそう言うので、何だろうと思ったけれど…そう言えば、今日は一月一日だ。
「あけましておめでとうございます。僕のほうこそ、マスター、今年もよろしくお願いします」
「おう。…んで、これ、お年玉な」
カーディガンのポケットから、マスターがいつも給料日に僕にくれるお小遣いが入ったぽち袋を取り出した。
「もらいましたけど?」
今月のお小遣いは先月の末に貰っている。それを不思議そうに見やると、マスターは僕の手を取りそれをぽすりっと置いた。
「これはお年玉。…ボーナスみたいなもんだと思え。無駄遣いすんなよ」
「ありがとうございます」
「おう」
マスターは大きな欠伸をすると、顔を洗ってくると言ってリビングを出て行った。それを見送り、僕はポチ袋を開いた。
「…わっ!!」
袋の中には一万円入ってた。…これって、ダッツ何個分?レディボーデンも買えるよ!!31のアイス、31種類、全部食べられるよ!! わお!!…思わず、想像して涎がこぼれそうになるのを慌てて堪える。…マスター、ありがとう、大好きです!!








 遅い朝食の後、新聞に目を通し終わったマスターが時計を見やり、口を開いた。

「カイト、初詣行くか?」
「はつもうで?」
「神様に今年もいいことがありますようにってお願いしに行くんだよ」
「神様?」
「そう。…ほら、早く着替えて来い」
急かされて、僕はコートとマフラー、年末にマスターに買ってもらった毛糸の帽子を被る。…今日は残念ながら天気はイマイチで、時々、ぱらぱらと小雨が降ったりしている。夜からは雪になるかもしれないと天気予報のお姉さんが言っていた。リビングにマスターの姿はなく、玄関から僕を呼ぶ声がする。マスターは特に準備が出来てたみたいで、厳重に首にマフラーを巻いて僕を待っていた。
「んじゃ、行くか」
外はどんよりとしているものの、雨は降っていない。その代わり、身を切るような冷たい風が吹いていた。
「…っ、さむっ」
「…寒いですね…で、どこまで、行くんですか?」
「そこの神社まで」
徒歩15分くらいのところに大きくもなければ小さくもない神社がある。いつもは人気のあまりない神社はこの天気のも関わらず盛況で、人で溢れ返っていた。
「ひとがいっぱいいますよ!」
「そうだな。はぐれんなよ」
「…ううっ自信ないです。……マスター、手、繋いでもいいですか?」
「…却下!!」
「ううっ、僕が迷子になってもいいんですかッ!!」
「自信を持って言うな…このバカイトがっ!!」
マスターは盛大な溜息を吐いて、徐に自分のコートの裾を摘んだ。
「これ、掴んどけ」
「あーい♪」
何だかんだ言って、マスターは優しい。僕はそのコートの裾を掴み、マスターと一緒に神社の境内、ずらりと続く人の行列に並んだ。
「…凄い行列ですね」
「初詣なんてこんなもんだろ。カイト、空いてる手、出せ」
「はい」
コートの端を掴んでいるのは右手なので、左手を差し出すとマスターはその手に小銭を握らせた。
「何か買うんですか?」
この金額じゃ、アイスは買えないどころか、駄菓子だって買えるか解らない。
「買うんじゃなくて、これは賽銭だ」
「サイセン?」
「簡単に言うとお願いを聴いてもらう為に払うお金だな」
「…随分安い金額でお願い聴いてくれるんですね。神様って、太っ腹だなぁ」
マスターはそれに苦笑を浮かべた。
「お願い事があるなら、頼んどけよ」
「はーい」
うーん。お願いか、何にしようかな?…アイスがいっぱい食べられますようにかな?…それとも、歌をいっぱい歌いたいにしようか?…マスターが早く、オリジナルを作ってくれますようにかな…悩むなぁ〜。…悩んでる間に先にどんどん進んで、大きな鈴から大きな太い紐がぶら下がった箱の前に出た。
「カイト、俺の真似しろ」
「はい」
マスターに倣って、一礼、賽銭を箱の中に投げ込んで、鈴を鳴らして、二回お辞儀、それから二回、手を叩く…お願いごとは、やっぱりあれにしよう。神様、お願いしますね。…隣をこっそりと見るとマスターも何かお願いしているみたいだった。…そして、その場で深々とお辞儀をして、マスターと僕はそこを離れた。
「何をお願いしたんだ?えらく、真剣な顔してたが」
行列から離れて、一呼吸。マスターが俺を見やった。
「マスターとずっと一緒にいられますようにお願いしてきました」
僕がそう言うと、マスターは面食らった顔をした。
「……何ですが、その意外って顔は」
「いや、お前のことだから、アイスがいっぱい食べたいとかそんなところかと」
ぶう。マスターはひどい!!…直前まで、迷ったけれどさ。
「アイスばっかじゃないです。失礼な!!」
「悪かったよ」
「…むう。悪いなんて思ってないくせに…。それより、マスターは何お願いしてたんですか?」
「ん?…お前と似たようなことだよ。まあ、家内安全だな」
マスターは少し笑って、僕の頭を撫でた。
「おみくじ引いて、帰るか」
「はい」
おみくじはマスターが中吉、僕が大吉だった。何か、いいことがあるといいな。






 初詣から帰ってきて、お腹が空いたなというマスターがお雑煮を作った。それを食べて、マスターと大晦日の夜からやってるアクションゲーム…マリオカートの続きをした。
「…今度こそ、勝つ!!」
「負けませんよ!!」
現在、7勝5敗…僕が勝ってます。コントローラを握ったマスターは鬼のようです。そんな顔してたら、勝てないですよー、マスター。




そんなこんな感じで、僕とマスターのお正月は過ぎて行きそうです。




オワリ