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カイトとマスターの日常小話

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冬色、ひらり。








「…寒ぃ…」



七時過ぎ…。いつもは八時前に起きてくるマスターが鼻を啜りながら起きてきた。
「おはようございます。今日は早いんですね」
「…おはよ…。…寝てたかったんだけどな。寒くて、寝てられねぇ…」
いそいそとリビングから和室に移動して、マスターがこたつとヒーターのスイッチを入れる。暫くすると猫みたいに寒さからくる強張りを解いてふにゃりと弛緩するマスターが何だかかわいい。
「もう少しでご飯炊けますから、待って下さい。後、お茶、熱いですからね」
「…ん。ありがとう」
湯飲みを受け取って、暖を取るマスターはまるでおじいちゃんみたい。…って言ったら怒るだろうから言わないけど。
「…そうだ。カイト、お前、外、見たか?」
「外?…いいえ」
「雪、降ってんぞ。見てみろ」
「ゆき?」
障子を開く。冷気にマスターがこたつ布団を肩まで引き上げるのを横目に見ながら、寒がりだなって思う。そんなに寒いかな?…まあ、僕は暑いよりは寒いほうが体の調子もいいんだけど。

「…わあ!」

マスターから障子の外に視線を移して、僕は目を見開いた。外は真っ白。いつも見るものは見えなくて、全てが白く覆われてる。縁側に出て引き戸を開く。冷気が頬を撫でる。空を見上げると白い綿毛のようなものがひらりと目の前を落ちていく。それがきれいで思わず手を伸ばす。

「…あれ?」

ひらり、落ちたそれを手のひらに受け止めて。でもそれは直ぐに溶けて、手のひらに残るのは僅かな水滴だけ。

「マスター」

「ん?」
いつの間にか傍らに立っていたマスターに僕は手のひらを差し出す。
「ゆき、水になっちゃいました」
「そりゃ、雪は元々が水分だからな。解り易く言えば、かき氷がもっとふわふわしたみたいなもんだしな」
「かき氷…」
そう言えば、夏にマスターが作ってくれたのはこんな感じだったけ。…じゃあ、シロップかけて食べたら美味しいかな?
「…お前、かき氷しようなんて思ってないだろうな?」
僕の考えを見越したようにマスターが言う。
「お、思ってませんッ」
「思ってただろ。腹壊すだけだから、絶対、するなよ。大気中のほこりとかなんとか色々、混じって、見た目ほどきれいじゃないからな」
マスターは断言して、そう言うとまたこたつに戻って、冷めただろうお茶を啜った。…ううっ、何で解ったんだろう。
「ふわふわして、きれいなのに」
「落ちてくるまでに色々な不純物がくっつくからな」
「…そうなんですか」
かき氷には出来ないのか…ちょっと残念だ。僕は外を見やる。庭の草木は白く染まり、物干し竿の上にもうっすらと積もってる。…今日の洗濯ものは久々に乾燥機行きになりそうだ。僕は引き戸を閉める。
「…マスター」
「何だよ?」
「後で、ゆきだるまとか作りたいです」
ネットで雪に関する知識を検索して、ヒットしたそれは雪が降ったときには必ず作る定番のものらしい。それなら、やっておかないと。
「寒いから、嫌だ」
マスターが眉を寄せて、言う。
「いいじゃないですか」
「寒いし」
「動けば暖まりますよ!」
こたつむりになってしまったマスターを口説き落とすことに何とか成功した僕はマスターを急かして朝食を済ませると、なお渋るマスターを無理矢理、庭に連れ出した。








「こんこん こんこん ふれふれ 雪 ずんずん ずんずん 積もれよ 雪 声なき リズムにのり ゆかいに おどりながら ふれふれ いつまでも ふれふれ 屋根までも♪」

ネットで拾った歌を口ずさみながら、丸い玉を拵える。楽しい。
「屋根まで降ったら、外出れねぇし。家にも入れねぇだろ」
歌を聴いたマスターが冷たい寒いと文句を言いながら、はあっと赤くなった指先に息を吹きかけた。
「歌詞にいちいち、文句言わないでくださいよ。もうっ」
折角、気持ちよく歌ったのに。…それでもマスターは文句を言いつつもちゃんと最後まで、僕の我儘に付き合ってくれた。マスターが指を赤くして作った少し大きな雪玉の上に僕が丸めた雪玉を乗せる。目と口は庭に落ちてた椿の種。手にはマスターが庭の隅から拾ってきた小枝を挿した。
「それっぽくなったな」
「はい」
何だかそれだけじゃ寂しいので、していたマフラーを外して巻きつける。これで寒くないよね。
「かわいくなりました」
「おう。うんじゃ、中、入るか」
摺り合せた指先。僕の指先は赤くはならない。…これがマスターと僕の違い。でも、僕だから出来ることもある。
「マスター」
その指先を掴んで、自分の手のひらに包む。マスターは一瞬、驚いた顔をして僕を見た。
「何だ、いきなり…」
「温めてあげようと思って。付き合ってくれて、ありがとうございました」
「…どういたしまして」
かじかんで冷たい指先は少しずつ僕の体温と同じになっていく。マスターは何か言いたそうだったけれど、僕のしたいようにさせてくれた。

「…お前の手、あったかいな」

「マスターの為に少し、体温上げてます。…もう、冷たくなくなりましたね。良かった」
まだ少し、赤みが残るけれど同じくらいな温度になった。このままずっとマスターの手を握っていたいけれど、マスターが体を冷やしちゃうしな。
「あったかいココア入れますね」
「そうしてくれ。砂糖、入れすぎんなよ」
「えー、甘い方が美味しいですよ」
「お前のは、甘すぎなんだよ」
相変わらず進歩のないいつもの会話に僕とマスターは笑って、暖かい家の中に入る。



雪はまだ、止みそうになかった。





オワリ