カイトとマスターの日常小話
カイトにマスターについて話をきいた。(100%惚気)
僕のマスターは、男の人で名前は国見 冬吾さん。
年齢は先日、誕生日が来たから33歳。
お仕事は僕には良く解らないんだけど、お家の設計をしています。
マスターは僕よりちょっと目線が高いです。中肉中背、体型は僕と変わらないぐらいなんですけど、最近、ちょっと太ったって嘆いてました。仕事部屋に篭ってばっかりで、運動しないからですよ。もうっ。
そんなマスターですけど、女の人にモテそうな感じのひとです。なのに独身です。恋人とか、結婚を考えてる女の人くらいいてもおかしくない年齢ですし、マスターなら女の人が放って置かないと思うんですけどね。…マスターは僕がいるから嫁なんかいらないいんじゃね?…なんて、暢気なことを言ってますけどね。僕、マスターの子どもに歌を歌ってあげたいなぁって思ってるんですよ。それにマスターと結婚する人は絶対、幸せになれると思います。やさしいし、色々、気づかってくれるし、家事は率先してやってくれるし…、多少口が悪くて散らかし魔なところを除けば、いい旦那さんになれると思うんですけど。…でも、マスターにお嫁さん来たら、僕、どうなっちゃうのかな?……あぅ…、まだ、僕だけのマスターでいて欲しいな。出来れば、僕がお嫁さんになりたいくらいなんですが、僕、赤ちゃん産めないしなぁ…。はぁ…。
…ああ、話が脱線してしまいました!今日はマスターの話をしようと思ってたのに!
えーと、話を元に戻しますね。ちょっと、昔話です。
僕がマスターのところに来たのは、夏も終わりかけた頃です。
秋って言うにはまだ早い季節でした。僕はその頃、先にマスターの元に旅立っていった弟妹が皆いなくなって、少しナイーブになってました。…僕だけ色々と事情があってまだ、マスターになる人が決まってなかったんです。
事情って言うのは僕の性格形成に関するプログラムにバグがいくつもでて、そのバクの修正が追いつかなかったからなんです。僕の感情回路はプログラムを作ったひとにも修正出来ないくらいに、複雑になってしまったらしくて、扱いを間違えると大変な性格になってしまうとか。環境と接し方によってはヤンデレとか、マスターを慕う余り危険思考になってしまうらしく…世の中にはそういうのが好きな人もいるみたいですが、マイナー受けより万人受けするキャラじゃなくては売れないそうです。…言われてる僕本人、万人受けしてるのかイマイチ良く解らないですけど、僕を作ったひとが言うんだからそうなんだとしか言いようがないですが。そんな訳で今の僕になるために僕は何度か性格形成に異常を来し、今の僕がうまくいかなければ、開発自体が中止になっていたとか。そうなっていたらここにはいられなかったので、そうならなくて本当に良かったです。そうだったら僕はここにはいないし、マスターと会うことも出来なかった訳だから。
何とか僕は順調に周りが望む形で性格形成が終了し、今の僕になり体を与えられました。…でも、中々、僕にはマスターがあらわれませんでした。先行される形で販売されたアプリケーションの僕もそんなに売れてない頃で、動画で青いの誰?なんて、良く言われてましたしね(遠い目)…。多分、このまま、ラボで研究開発のお手伝いをしていくことになるのかな…って、諦めながら思ってたんですけど、ラボの主任から突然、僕のマスターが決まったと告げられて…そのときは嘘なんじゃないかと思いましたけど…。バタバタとマスターの元に行く準備が始まり、ようやく本当に僕にもマスターが出来るんだなって、漸く実感と嬉しさが込み上げてきました。
「KAITO、お前のマスターがお前にとって最良のマスターであることを祈ってるよ。嫌になったら、いつでも、ラボに戻って来ていいからな」
そう言って、長いこと僕のマスター代わりだった主任は目の端っこに涙を浮かべて僕のメモリーの一部を消去し、僕本体の電源を落とした。…そして、僕はラボを後にし、期待と不安とで胸をいっぱいにしながらマスターの元にやってきた訳です。
「…カイト…」
僕を再び、起動させたのはどこか緊張した声でした。名前を呼ばれて起動なんて、今思うとロマンチックですよね。…その声を聴いて、内臓されてた電源がオンになり、粒子がすごい勢いで僕の中を駆け巡っていきました。
たった一言、その声に僕のプログラムは起動に向けて動き出し、僕はどんな言葉でも言い表せない感動と興奮に歓喜に包まれて、早く早くと急かすように眩しい光に僕は手を伸ばす。
僕のマスター、僕だけのマスター!
僕が心ひそかに弟妹を羨んで、ずっと望んでいたものがようやく手に入る。それが嬉しくて嬉しくて、仕方がなくて。今すぐにでもマスターがどんなひとなのか確認したいのに、プログラムの読み込みは中々、終わってくれない。
どんなひとなんだろうか?…声が低かったから、男のひとだよね?…やさしいひとだといいな。
大好きになれるといいな…でも、怖いひとだったらどうしよう!!
いっぱい歌わせてくれるといいな。
期待と不安と色んな感情で頭が混乱する。…ああ、早く、マスターに会いたい!!
プログラムの読み込みが漸く終了し、待ちきれず目を開く。
上手く像が結べなくて、何度か瞬く。視界に写るのは、男のひとだ。僕の様子にどうしたらいいのか解らなくて困惑した心配そうな顔で僕を見てる。…何か、優しそうなひと、だ…良かった。
初めてマスターに触れる。緊張で震えてしまう。手のひらでその頬の輪郭を確認するように撫でる。温かい。僕を驚いたように見つめるマスターの鳶色の瞳に自分の虹彩を合わせる。この網膜の登録が終わったら、僕はマスターのものになる。…このひとが僕のマスターになるんだ。…うわ、何か、本当に緊張してきた。…あ、そうだ、マスターにちゃんとハジメマシテの挨拶しないと!…何て、言おう?
「…カイト?」
困惑しながら、マスターが僕の名前を口にする。名前を呼ばれるのがこんなに嬉しいことなんて思わなかった。どうしてだろう?マスターだからかな?…それより、ちゃんと挨拶しなきゃ。…えーっとやっぱり、ハジメマシテで、自己紹介かな?
「…ますたー、ハジメマシテ。…ボクハ…ぼーかろいど かいと…デス…」
上手く喋れたかな?発声はマスターの調整に合わせて成長するように初期化されてしまったから、発音が少しおかしくなっちゃったけど。
「はじめまして。カイト、これからよろしくな」
マスターがほっとしたように僕に笑ってそう言った。僕はそれが嬉しくて嬉しくて、もうこのまま死んでしまう!…って思うぐらいに本当に嬉しかったんです。
…んー。レディボーデンのバニラも美味しいな。…あ、えーっと、何の話をしてたんでしたけ?
…あ、そうそう、マスターの話でした。
マスターは体を持った僕が来て、最初、死体(ひどい!)かと思ったって、いつだか笑って話してくれました。マスターはアプリの僕を購入したつもりだったので、まさか実体のある僕が来るなんて思わなかったみたい。体のあるボーカロイド自体が発売前でしたしね。
作品名:カイトとマスターの日常小話 作家名:冬故