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カイトとマスターの日常小話

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かわいいだけじゃダメかしら?





 怪しい雲行きに慌てて家路へと急ぐが、日頃の行いが良くなかったのかアーケードを出た途端、バケツを引っくり返したように降り始めた雨が下ろしたばかりのスーツを濡らしてく。

「雨、降るなんて言ってなかったじゃねぇか!」

空を見上げ、毒づけばそれに怒ったかのように遠くで雷が鳴り始める。半ば泣きたいような気持ちで、やけくそ気味にばしゃばしゃと水を跳ねながら、俺は我が家へと急ぐ。
「…はー、酷い目に遭ったぜ」
引き戸を開き、玄関でスーツの上着を脱ぐ。ぽたぽたと水が滴った。
「パンツまで、びしょびしょかよ。…はぁ」
服を着たままシャワーを浴びたような感じだ。濡れて結び目の固いネクタイを外し、靴を脱いで、ぐちょぐちょに生温かい靴下を脱いだところで、ピカッと稲妻が走り、轟音が轟く。それに驚いて、思わず振り返り、それからシンと静まり返り、暗い廊下を見やる。背後でまた白光が空を裂き、ドーンっと言う音が鼓膜を震わせる。
「カイト、いないのか?…タオル持って来てくれると嬉しいんだが…」
これで家に上がるのは後片付けが面倒だ。風呂は廊下の突き当たりにあるのだ。このままだと確実に俺、風邪引くぞ。雨に濡れた所為で身体は既に冷たい。

…ドーン!!

再び、耳を劈くような轟音。それと同時にバタバタっと何かが駆けて来る。

ピシャッ!! ドドッーン!!!

「ひい!!いやあああああああああああっ!!こわいよおおおおおおおっ!!」

どふっ!!
ごすっ!!

悲鳴と一緒に飛びついてきたそれに俺はどうすることも出来ず、ガンと思い切り玄関の三和土に頭をぶつけ、気を失った。





「…すた、ますたぁ…」

後頭部が痛い。じわっと熱いような痛みに目を開ける。目の前には鼻水と涙でぐしゃぐしゃになったきれいな顔も台無しなカイトが俺を見下ろし、すんと鼻水を啜った。

「…痛い」
「ううっ、ごめんなさいごめんなさい」
「…重い」
「ふえっ、ごめんなさいごめんんさい…でも、いやっ…ひゃあっ!!」

轟音がまた鳴り響く、ぎゅうっとカイトがしがみ付いて来た。重いし、痛いし、

「…寒い」

ガクブル震えるカイトからガクブルになった俺が解放されたのは、一時間後のこと。

「ぶしっ!!」
「ああ、ごめんなさいごめんなさい」

案の定、熱を出し寝込んだ俺にカイトは泣きながらも看病しつつ、謝り放しだった。

「…頼むから、いきなり抱きつくなよ」

ずきずきと痛む後頭部に釘を刺すべく、そう言えば、

「ごめんなさい。でも、無理です」

と、カイトは可愛い顔で即答するのだった。




オワレ