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Hell or Heaven ?

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「髪、どうしたの?」
「……この状況で最初に訊くのがそれかよ。門田にやってもらった。今、俺が街で見つかったらヤバいからって……」
「何で来たの?」
「だから、何か門田たちが、行けって……」
「何で助けたの?」
「おい、手前人の話聞いてんのか?」
「……結構前から、紛れ込んでたんでしょ。どうせ助けるなら、もっと早く出てきてよね。危うく、天使と顔を合わせるとこだったよ」
「うるせぇな、真打ちが最初から出てきてどうすんだよ。大体、ノミ蟲の分際で天国に行く気か図々しい。地獄に堕ちろ」
「殺すの止めたの、シズちゃんじゃん」

二人の会話をぽかんと聞いていた周囲の男たちの弛緩した空気が、そこで再び俄かに張り詰める。

―――シズちゃん、だと?

臨也の苦しそうな声が告げたその呼び名に、チンピラ達の大半が反応した。

―――まさか、まさか。

しかし、黒髪の男の正体を一瞬悟りかけた者たちも、結果的にはその考えを振り払うことになる。

一つ目の理由は、男の格好だった。
静雄を遠目にしか見たことのない、賢明な一般人である彼らは、『金髪』『バーテン服』『サングラス』が揃ってこそ『=平和島静雄』という式を導き出せるのであり、『黒髪』『シャツにジーンズ』『裸眼』の目の前の男が平和島静雄であるかは判断できない。実際、街で偶然静雄に会い、彼をここまでバイクに乗せてきたセルティでさえ、声を掛けられるまで静雄であるとは気付かなかった。

「言っとくけど、好き好んで手前を助けに来たわけじゃねぇからな。こっちにも事情っつうもんがあんだよ」
「だろうね。シズちゃんが俺のナイトだなんて、考えただけでぞっとする」
「黙れ、死ね」

二つ目の理由は、周知となっている折原臨也と平和島静雄の犬猿の仲である。
男たちは「平和島静雄がよりによって折原臨也を助けるわけがない」という、池袋に住む者なら至極当然である道理から、『目の前の男=平和島静雄』を否定した。むしろこの状況なら、平和島静雄は喜んで自分たちの側に回るだろう、とさえ考えたのだ。

「正確に言うと、助けたのは手前の命じゃなくて、手前のその腐った頭ん中にある情報だ。使うだけ使ったら、さっさと殺すからな」
「……シズちゃんが、本当に、俺を殺せるならね」
「あぁ!? 当たり前だろうが! よし決めた、今日こそ殺す、後でぜってぇ殺すからな」

更に三つ目の理由は―――ある意味ではこれが最も大きな理由であったのかもしれないのだが―――単純に言って、男たちは彼が平和島静雄であると認めてはいけなかったのだ。
認めたら最後―――今から自分の身に降りかかるであろう災厄に、たちまち恐慌を来たしてしまうであろうから。

彼らは静雄に喧嘩を売ったわけでは、決してない。
むしろ、殺そうとしていたのは折原臨也なのだから、静雄に感謝されることはあっても恨まれることなどありえない。

―――……ありえない、はずなのに。
―――何というか、この雰囲気は、よくわからないが、非常にまずいのではないか。

彼らが今日始めて顔を合わせる寄せ集めのダラーズでなければ……この場ではある意味で目立つ、黒髪をした男がいつの間にか紛れ込んでいることに気付けたかもしれず、さらには上手く逃げ出すことさえ出来たかもしれないのだが―――彼らは、どこまでも運が悪かった。

今や倉庫内の雰囲気は先程までのものとは一変しており、池袋最強と呼ばれる彼一人に完全に支配されていた。

「つーわけで……」
そう言いながら、ようやく静雄が男たちの方を振り向く。
その表情を見た途端―――彼らは「ああ、終わった」という圧倒的な絶望を感じる。

数メートル先で、凄まじい負のオーラを放つ男が平和島静雄であることを、既に彼らは半ば本能的に認めてしまっていた。しかし、自身に迫る恐怖に捕らわれてしまった彼らは、一歩も足を動かすことが出来ない。付け加えると、静雄の足元で遂に意識を手放し、壁に凭れこむ臨也の存在などは、男たちの脳内からはすっかり消え去っていた。

「こいつは俺の獲物なんだ。―――手ぇ出すんじゃねぇ」

恐怖のどん底にいる男たちにとっての最後の希望は、静雄の機嫌が最高潮に良く、穏便にこの場を立ち去ってくれるというその一点にのみしか残されていなかった。
しかし―――理由はどうあれ臨也のために働くはめになった静雄が、上機嫌でいるわけもない。
皮肉なことに、現在の静雄の怒りを最大にまで煽ったのは、彼らが先ほどまで痛めつけていた臨也だったのだ。

「さて」

今度はどこか嬉しそうな響きを含んだ静雄のその声に、彼らは再び体の芯から震え上がる。
そして同時に、嫌でも理解した。―――今この時、この場所での彼の獲物は、間違いなく自分たちなのだ、と。

―――どうして。
―――どうしてこんなことになったんだ。
―――俺たちは、俺たちはこんなつもりじゃ…………

「最初にあの世に行きてぇのは、どいつだ?」

片手で軽々と鉄パイプを構えた静雄が、男たちの地獄の始まりを告げた。

作品名:Hell or Heaven ? 作家名:あずき