storm
「本当におかしいですよ!なのに『何でもない』だなんて…オレが何も感じないとでも思うんですか!?いつもの豪炎寺さんじゃないって、プレイを見れば一目で分かるのに…」
「虎丸…」
「オレは…オレでは、あなたの力になれないんですか………?」
「……違う。…これはオレ個人の問題だ。それなのに練習にまで影響を及ぼしているのは…オレのミスだ。…すまない」
「…謝って欲しいんじゃありません。そうじゃない。…豪炎寺さん…オレ………」
あなたが抱えているものを、オレにも分けて欲しいのだと。
伝えたいことの何分の一も言葉に出来なくて、盛大に気持ちが空回る音が聞こえるようだ。
数歩先で立ち止まる豪炎寺が途方に暮れた顔をしていることが哀しくて………そうして、少しだけ嬉しいと思った自分はどうかしてしまったのかもしれない。
(昨日、円堂さんと何を話していたんですか)
(その辛そうな顔を、円堂さんにも見せたんですか)
立ち尽くす豪炎寺へ、歩を進めながらいくつもの問いが頭に浮かんでは言葉に出来ないまま消えて行く。
「全部何もかもを話して欲しいなんて言いません。ただ……嘘だけはつかないで…欲しいんです」
「…虎丸」
「言えないことは言わなくていいんです…だから『何でもない』だなんて言わないで…」
「………すまない…」
「豪炎寺さんはオレを受け止めてくれたのに…」
目の前で見上げた瞳は苦しそうに歪み、彼の葛藤の深さを見せ付ける。
その苦しみを少しでも分けて欲しくて…
無意識に、豪炎寺へ手を伸ばした。
思わず瞳を閉じた豪炎寺の目蓋に、伸ばされた虎丸の右手が重なる。
「あなたが辛いなら、いっときだけでも、オレがあなたの瞳を閉ざします。あなたがそれを受け止めると言うのなら…オレはその背を支えます」
豪炎寺は抵抗することも無く、ただ静かに唇を噛み締めていた。
虎丸の中へ嵐を巻き起こす彼の中にもまた、激しい嵐があるのだと。
触れる目蓋の熱さに思い知る。
(キャプテンと………円堂さんと、同じ存在にはなれない)
ならば、自分は必死に彼へと手を伸ばすだけだ。
決して隣には並べないけれど。
「虎丸………すまない…」
いつか、『すまない』とは別の言葉が聞けるようになるだろうか。
(他の誰とも、違う場所で…)
そんな日を絶対にひき寄せてやるのだと、今はまだ見上げるしかない大好きな人を見つめながら強く想う。