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アフタスクール・ウォーズ

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その日の放課後、私はいつもの如く生徒会室に向かっていた。理由はいつもの如く、イギリスに言われた仕事を渡すためだ。
 この学園に入学してもう随分経つ。初めて植民地にされた時こそイギリスはなんて奴だと思ったものだが、最近ではとりあえず悪い奴ではないらしいと印象をやや改めている。一応仕事はやっているようだし、まあ合格点にギリギリ届かない程度だろう。
 ただ、奴の料理。あれだけは勘弁願いたい。初めて食べた時は本気で国家滅亡かと疑ったものだ。不味いとかいうレベルではない。あそこまでいくと最早殺人的とまで言える筈だ。フランス曰わくあれは一種の兵器らしい。確かに、日常的なものである辺り爆弾よりも恐ろしいかも知れない。今にして思えば、最初日本とイタリアにイギリス領であると告げた時のあの哀れむような視線は、イギリスの人柄というよりは寧ろイギリスの料理の破壊的不味さを知っての同情だったのだろう。
(あれさえなければもう少し見直す気になるのに。)
 勿論、それで合格点に届くわけではないが。仕事をしないと植民地だなんて横暴が過ぎるではないか。特に今日は文化祭の前日。私だって準備に混ざりたいのに――。
「会長、言われた書類持ってきましたー。」
「ああ、そこに置いておいてくれ。」
 持って来てやったのになんて投げやりな。イギリスに一言もの申してやろうと声のする方へ視線をやって、私は言葉を失った。
 イギリスの周りには書類が山と積まれている。その隣には珍しくフランスも居て、イギリスの回す書類とひたすら向き合っていた。えもいわれぬ緊迫感。私が黙っている間にも、2人の間を書類が飛び交う。会話はない。目も合わせない。けれど2人は確実に山を崩していっているようだった。何という鮮やかな連携プレーだろうか。
(2人って仲悪いんじゃなかったっけ?)
 本当に仲悪かったらこんなことできないような気がするのだが。
「いいぞ、行って。お前も準備あるんだろ。」
 イギリスの言葉で我に返る。そうだ、クラスに帰らねば。
「えー、と…じゃあ…」
「ああ、忙しい時に悪ぃな。こっちのことは気にしないでいいからさっさと行け。」
「はーい、ありがとうございます。」
 あれ。文句を言いたいはずが何故感謝しているのだろう。
 自分で自分に疑問を覚えつつ、私は生徒会室を出た。


「やーさしーい。」
 セーシェルが出て行ってから暫くして、フランスがそう呟いた。俺はそれに応えながらまた一枚、書類をフランスの方へ回す。
「うっせぇ。俺はいつでも優しいだろうが。」
「じゃあその優しさを少しでいいからお兄さんにも分けてよ。」
「生憎と嫌いな奴に渡す優しさには持ち合わせがない。」
「え、お兄さん嫌われてたの?」
「今更だろ。………ッあ、ったくまた計算間違えてやがる!」
 計算の間違えた書類が本日何枚目か、なんて考えたくもない。どいつもこいつも文化祭で浮かれやがって、こっちの苦労も考えやがれってんだくそったれ…。
「イギリス、心の声だだ漏れ。」
「聞き流せ!あー終わらねえ!」
 文化祭前日の放課後はいつもこうだ。スケールも費用も常識外れなこの学校の文化祭に必要な契約、搬入、機材などなどは莫大な数に及ぶ。しかも教師は完全ノータッチであるため、それを管理するのは全て生徒会に一任される。更に、生徒会役員だって生徒だから自分のクラスの準備がある。結果的に、会長の俺と副会長のフランスの2人で殆ど全てを捌かなければならなくなるのだ。
「去年は深夜までかかったんだっけ…」
「だから今年は少しでも早く終わるよう昨日の夜に昨日までの分は全部捌いてきた。」
「ふーん…って、え!?あれを?全部?」
「去年みたいに直前でバタバタしたくないからな。」
 去年は、前日にこんなに一気に書類が舞い込むことを予想出来ず、少しずつ捌いていて痛い目にあった。それを昨日思い出して、昨日までの分を予め捌いておくことにしたのだ。
「……ちなみに時間は。」
「4時。」
「ちょ、大丈夫なのお前?」
「大丈夫だろ。」
 多分。
 そう言って、俺は書類捌きを再開した。さっき終わらないと叫んだが、昨日の成果はあったらしく山の高さは去年よりは大分低い。
「2人分のとこを1人でやったら時間かかるでしょうに…」
「直前にバタバタするよりはマシだ。」
「いや、とは言っても…」
「うだうだ言う暇があったら手を動かせ、手を。」
 俺の一言で漸くフランスも大人しくなり、仕事を再開する。全く、何故俺はこいつなどと仕事をせねばならないのか。今度抗議をしてやりたい。する宛てがないのが現実だが。
 俺はまた新しい計算間違えを見つけて溜め息を吐き、計算機に手を伸ばした。
 しかし、そこで手が止まる。ぐにゃりと視界が歪んだ。あれ、っかしーな。思う間に身体が弛緩し、カターンとシャーペンが机に叩きつけられる音がした。それが自分のものだと気付く頃には、視界はブラックアウトを始めている。
「イギリス!?」
 焦ったようなフランスの声が遠い。何か言おうと口を開いても音にはならず。
 視界が黒く、塗りつぶされた。


「………ん、あ…フランス?」
「はーい当たり。生きてる?坊ちゃん。」
「…なんとか。」
 目を開けると、多分そこは保健室だった。えーっと…?ああそうだ、確か、文化祭前日の仕事をしていて、ぶっ倒れた。目の前にあるのは目覚めにはよくない顔だが、状況は訊かねばなるまい。
「し」
「仕事に関しては心配すんな。」
「すんなって…無理だろ。今何時だ?どこまで終わってる?明日までに終わらせないと、」
 ああもう昨日の苦労は水泡に帰した。今が何時かは分からないが、今からやったらまた去年の二の舞になるに違いない。
 思わず舌打ちして、起き上がろうとしたら、フランスにベッドへ戻された。
「あーもーお前は寝てなさいって。」
「はあ?何言ってんだよ早く進めないと」
 嫌がらせしてる場面じゃないだろ、と言ったら呆れた顔をされた。苛々。
「あのなあ…!」
「イギリス。」
「あ?」
「お前の倒れた原因は言わずもがな過労です。」
「…いや、まあそりゃそうだろうけど。」
「……何日だ?」
 いきなり核心を突かれた。
「………4日。」
「4日寝てねえの!?そりゃ倒れるわ…。」
「色々あんだよ色々。」
 いつもの仕事、クラスの出し物、生徒会の展示、当日シフトの組み立てetc。俺に課せられた仕事は何も、文化祭前の書類仕事ばかりではない。生徒会役員が生徒なら俺も生徒だし、クラブに出し物があるなら生徒会にもある。それらを全てこなすために、文化祭前はいつも殆ど寝られない。今年はそれに書類仕事を足したから、完全に寝られなくなった。
「あのさあ、」
「でもそれは関係ねぇだろ。仕事を放棄する理由にはならない。」
「仕事はもう終わりました。」
「………え?」
 俺は耳を疑った。あれが全部終わったって?
「つーか、俺が終わらせたんだけどな。坊ちゃん、起きたら絶対こうなると思ってたから。」
「だからって、あの量を?」
「どれだけ俺がお前に付き合ってきたと思ってんの。」