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アイタイ

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「はぁ?」
 一気に力の抜けたような声を出して、花井が口を開けている。
「絶対、花井はオレの事好きだと思ったんだ」
「おま…」
「ゲンミツに、オレたち好きだと思った」
 本気の気持ちが伝わったのか、花井はそれ以上怒らなかった。
「お前、本当に色気無いなあ」
「花井は色っぽいよな。てか、エロい」
 うっと詰まって黙ってしまった花井の目を、逃すまいと覗き込む。
 花井はしばらく固まって、そして目を逸らした。
 だが、一息おいて覚悟を決めたのだろう。真剣な顔で、視線を戻した。
「エロいってのは、こういう事されてから言え」
 強く引き寄せられて、被さるように唇を押しつけられた。
 驚いて、頭が白くなる。
 一度離れて、また深く合わさり、何度も舌を吸われる。
 頭がくらくらして、たまらずに花井の背を引っ張ったら、襟が崩れて固い肩が剥き出しになる。
 その直接触れた肌の熱さにあてられて、今度は自分から求めにいった。
 しかし、闇に大胆になっていた二人を遮るように、突然軽い音楽が鳴り響く。
 ぎょっとして柔らかいイルミネーションを繰り返す携帯を振り返ると、メールのアイコンと「水谷」の文字が浮かんでいる。
 整っているのに、どこか愛嬌のある顔を思い出して、二人で吹き出した。
「あいつ、狙ってんのか」
「良いところでジャマしやがって」
 花井がはだけた襟を直して、もう一度、今度は額に唇をあてた。
「遅くなったな。そろそろ行くか?」
 促されたが、田島はふるふると首を振った。
「チンコたっちゃったから立てない」
 収まるまでは動けないと、花井の袖を掴む。
 横にいたらいつまでも鎮まりそうにないが、置いて行かれたくもない。
「どれ?」
 前触れもなく、熱くなった場所を探られて、体が跳ね上がる。
「ちょっと出るって」
 花井に触られていると思うと、軽い刺激で達してしまいそうだ。
 さすがに恥ずかしくて、逃れようと身をよじる。
「出していいよ」
 裾の広いパンツをたくしあげられると、花井の探しているものはすぐに顔を出した。
「すごいな」
 熱く変化した他人のものを触るのは怖いのか、花井のためらいがちな指先が、劣情に追い討ちをかける。
「汚しちゃうから…」
「大丈夫」
 花井が被っていたタオルで、そっと先端を覆われる。
 出していいと、もう一度促され、大きな手が田島全体を緩やかにこすりあげていく。
 もう止められない変化に戸惑う体を、片方の腕でしっかりと抱きとめられると、汗ばんだ花井の首筋にしがみついた。
 自分でするのとは違うもどかしさ、恥ずかしさ、そして何よりも花井によって高められているという喜びで、たいした我慢も出来ずにタオルに吐き出した。
「はふ…」
 花井にしがみついたまま、浅ましい自身も晒されているのに、羞恥心より気だるい幸福感に満たされる。
「…ぁふ…キモチよかった」
「すげぇ出たな」
 花井が乱れた服を直してくれるのに身を任せて、もう一度ゆっくりと息を吐いた。
「もう立てるよな? そろそろ帰らねえと、まずいだろ」
「えー、まだいいよぅ」
「俺は明日バイトなんだよ」
 ちぇーっと身を起こして、花井の携帯を放り投げる。
「あぁ、水谷がなんか言ってたな」
「オレ、浮気は許さないから」
 ありえねぇと吹き出して、メールを開く。
「この間の試合の写真、早く回せだって」
「そういや、未送信は?」
「本当に余計なことはよく覚えてんね…あとで送るよ」
 ドアの前で、どちらからともなくキスを交わした。
「へへっ」
「秋から部屋を借りる予定なんだ」
 一人暮らしという響きに、目をキラキラさせて遊びに行くとハシャぐ田島に、花井が低く囁く。
「覚悟決めてからこいよ」
 覚悟?
 きょとんとした田島に手を振って、花井が自転車を押していく。
 その背をしばらく見送ってから、ゆっくりと家に向かった。
 人のいない校内を歩いていると、ポケットに突っ込んだままの携帯が鳴る。
 花井からだ。
『一軍入りおめでとう。活躍楽しみにしてる』
 これは去年だ。
 戸惑ううちに、またメールが届く。
 初出場の祝い、調子の良かった時、悪かった時の励ましもあった。
 そして、最後のメール。
『みんなで応援に来た。ライトスタンド狙え』
 もしかして、花井ってバカ?
 いつも考えすぎなんだよ。
 保存するくらいなら送信押せよな! と、携帯に文句をつける。
 ちょっと考えて『ゲンミツに打ったぞ!』と返す。
 宴席は主役不在で終わったらしい。いびきが聞こえる廊下をこっそり抜けて、自室に入った。
 出しっぱなしの手袋を、手にはめてみる。
 自分にはゆるいそれで、唇に触れた。
 花井とキスだけじゃなく、すごいことをしてしまった。
 思い出して、再び体が熱くなる。
 花井はどこを歩いているのだろう。
 彼の家に向かう道を思い返していたら、携帯が震えた。
『すげーカッコよかったよ』
 にしっと笑って、『惚れ直した?』と打ち込んだ。
 返事は冷たく『調子乗るな』と、改行をいっぱい入れての『四年前から毎日だよ』
 思わずおぉっと声を出して、口を押さえる。長姉が起きてきたら、怒られる時間だ。
 さて、返事をどうしようと白い画面を睨んでいたら、携帯が震えだした。
「もしもし!」
「今、家着いた。また連絡するから、お前も早く寝ろよ」
 オヤスミと言ってすぐに切ったものの、興奮し過ぎて眠れない。
 とりあえず電気を消して布団に入ったが、未練がましく携帯を持ち込む。
 そんな田島を見透かしたように、花井からメールが届いた。今度はメーリングリストだ。
 田島初ホームランのタイトルで、ファイルが付いている。
 受信に時間のかかったそれを開いて、田島はただ幸せな気持ちで満たされた。
 あの夏を一緒に過ごした仲間全員が、ボールを真ん中にして誇らしげに写っている。
 いろんな事が有りすぎて、ゲンミツにいい一日だった。
 布団の上で伸びをして目を閉じると、微かに蚊取り線香の匂いが漂ってくる。
 思い出される、熱かった夏。
 花井と交わした言葉。
 ふざけて、時に喧嘩して。
 照れ屋の癖に、時々妙にまっすぐ笑ったりして。
 あの身体に憧れ、羨んで、そして何より綺麗だと思っていた。
 それが、逢えなかった一年で、大人の色気を出すようになっていた。
「あんなにカッコいいの、ズルイ」
 さっき別れたばかりなのに、もう会いたくなる。
 今度からは、帰れるチャンスがあったら、なるべくこっちに来よう。
 花井の部屋にも行ってみたい。
 そしたら、またキスとかできるし!
 満たされた気分で、ようやく訪れた眠気に落ちようとして、ふいに花井の言葉が蘇った。

『覚悟決めてからこいよ』
 遊びに行くのに覚悟って…そういう意味?

 まだ、眠れない夜になりそうだ。

作品名:アイタイ 作家名:藤堂 蔦葉