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つづければ、正夢

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口に出すのもはばかられる自身の欲望を、夢で見たことは記憶に新しい。
日頃、感情の堪えがきかない自分が、こんな状況に放り込まれては、どうなってしまうのか予測がつかなくて本気で怖い。

(どうする、やっぱ場所変えるか、ああでもこのタイミングでそんなこと言ったら竜ヶ峰に失礼になる!?別に絶対何かするってわけじゃないんだしつーか何かってなんだよ何する気だ俺!!)
などと。
ごちゃごちゃ考えている間、時間が止まっているわけでもない。帝人が促すのに、上の空のまま静雄は素直に従って、玄関をくぐり、部屋に入ってしまっていた。
気づいた時には、最早退路は無かった。

*******

最低限の生活設備に、パソコン一式含む最低限の家具が置かれた部屋は、決して広くは無いのに、どこか殺風景なところがあった。

「どうぞ、座ってて下さい。お茶淹れますから。」
「いや、いい。」
台所に向かおうとする帝人を引き留める。
夕焼けが窓から入り込み、赤みがかった薄暗い部屋の中で、帝人を見る静雄の目は静かでありながら強く少年を引き留めた。
その目に縋りつくような怯えを見た気がした帝人は、素直に静雄に従って、彼を座らせた畳の上に自らも腰を下ろす。
向かい合う形で座す少年と青年。
一拍置いて、青年が口を開いた。
「こないだは、っつっても結構前か。驚かして悪かったな。」
突然告白されたことか、それとも直後に爆睡されたことか、はたまた新羅のマンションのベランダから飛び降りようとしたことか、どれだろう。
(全部驚いたといえば驚いたけど、でも、)
「いいえ。平和島さんに関しては、驚かされること、珍しくないですから。」
気にする事じゃないですよ。そう言って、帝人は苦笑した。
そりゃどういう意味だと言いそうになって、静雄はこの少年の前で見せた自分の行動を反芻し、納得せざるを得なかった。それでなくても人間離れした運動能力を晒すのが日常茶飯事な自分のことである。普通の人間は驚くものだ。

それにつけても、恋の病と片づけるには、やはりこの少年の前で取った自分の行動の数々は突飛であったと自覚できる。ともすれば自分勝手だとも云えた。恥入るしかない。
「それで、その、」
「ああ。」
とにかく本題に入らねばと、静雄が口を開くが、羞恥心と僅かの恐れが邪魔をして言いあぐねると、帝人は心得たという風に声を上げた。
「公園でおっしゃっていたことですね。」
「・・・・うん。」
帝人の声音に、気遣うような色が混じる。これが自分を拒絶する故の憐れみによるものか、と思うと、心臓が嫌な音を立てた。そうして改めて、ああ自分は本当にこの少年が好きなんだと確信させられた。

ふと、帝人は自分の膝の上に視線を落とす。静雄は伏し目がちになった帝人の額や前髪の生え際、そこに続くなだらかな前頭部をぼんやりと見ていた。跳ねる心臓の音を無視して、思考を止める。
何を言われても、傷ついても大丈夫なように。

「お気持ちは、嬉しかったです。」
正座した自らの膝先を見つめたまま、帝人はぽつりとそう言った。
静雄は、今度はぐしゃり、と胸の内に皺が寄るような、湿ったひび割れが入るような心地がした。
少年の口から発せられた言葉は、まるっきり断るときの常套句だと感じられた。
続く言葉を待って、静雄は唸りそうになるのを堪える為に唇を噛んだ。
「あれから、色んなこと、たくさん考えました。」
平和島さんのこと。言われた言葉のこと。自分の気持ちのこと。
その思考は決して苦悩というわけではなく。
「一週間、考えて、僕の、思い違いとかでなければ、答えは決まっていたのに。」
平和島さんになかなか会えなくて困りました。悩んだことと云えばそのくらいかな。
帝人の声は落ち着いて、静かで、感情を読みとることが出来ない。
生来気の短い静雄は、焦れて切れそうになるのを堪えるのに必死で、だから尚更その声から少年の内心を図ることが難しい。

不意に、伏せていた顔が上げられる。
視線を固めていた静雄は、少年の瞳とまともに目を合わせる。
その瞬間の帝人の表情は、静雄の中に深く焼き付いた。

すべてを受け入れてくれるような穏やかな表情。なのに、瞳は違う。
切望した歓喜。諦めのような悲哀。それらを湛えて底なしに澄んでいる。
泣くのではないかと思った。今にも温かい、熱い、血の通うが如きものがこぼれ落ちてくるのではないかと。瞬間、静雄はそう感じた。
それは錯覚で、しかしそれ以上に少年の表情から読み取れるものが、静雄には無かった。
こんな表情を、青年は己の人生の中で目にしたことが無かったのだ。
向けられる表情には、いつも恐怖と敵意と憐憫とが大きく、そんな分かりやすいものしか、静雄は相対する人間の表情からは読みとってこなかった。それすら見るのが嫌で目を逸らすことすらあった。

瞳からこぼれないかわりに、帝人の口からあっさりと、その言葉がこぼれ、溢れる。
「平和島さんが僕のことを好きで、本当に嬉しい。僕もあなたのことが好きだと、思ったから。」
先に公園で云った『好き』とは、また別の意味で。あの時平和島さんが言ってくれたのと、同じ意味でですよ、と、帝人は念を押すように重ねていった。
そこでやっと、帝人の表情に見惚れていた静雄の頭が状況を掴むため働き始める。
今、云うなれば自分は、あのときの公園においての、逆の立場にあるのだろうか。自分はこの少年から同じ想いを返されている、と。

いわゆる、両想いという、やつで。

またもや固まってしまった静雄に、帝人は続けて口を開くのを止めて、緊張を解くように一つ息を吐くと、今度は正しく緊張した、まるで決死の表情をして静雄に向き合う。
「平和島静雄さん。」
「っ、はい!?」
出し抜けにはっきりとした声でフルネームを呼ばれ、意識が明後日の方向に逃避しかけていた静雄は思わず敬語で返答し居住まいを正した。
静雄が自分に意識を向けていることを確認した帝人は、そのままの声の調子で続けて言う。
「お互いの気持ちが確認できたことですし、中途半端なままのも気まずくなりそうで嫌ですので、はっきり言います。正直なお気持ちでお返事をよろしくお願いします。」
気圧されるように、こくっと短く静雄が頷く。

「・・・僕と付き合って、くれますか。」

耳どころか首まで真っ赤にした帝人の姿もまた、この日の静雄の記憶として鮮烈に焼き付くこととなった。




END
作品名:つづければ、正夢 作家名:白熊五郎