【テニプリ】温泉に行こう!
その夜、ビールを片手に…。
自宅で夕食を共にし、帰宅した手塚を見送って、跡部は缶ビールのプルタブを引く。プシッと小さな音と同時に軽快に鳴り響くメロディー。電話に出ると相手はリョーマで、缶ビールを片手に跡部はソファに腰を下ろした。
『国光さんと温泉行ったんだ?』
「あぁ…」
『いいなぁ。オレも行きたかったなぁ』
「今度、戻ってきたら、手塚と行けよ」
『そーする』
暫しの雑談の後、本題の仕事の話をして、跡部は思い出して口を開いた。
「そういや、お前、手塚に変なこと言うんじゃねよ」
『変なこと?』
「浮気するなら俺としろって、何だよ?手塚から言われて、心臓止まるかと思ったぜ」
『あぁ、あれね。不二先輩とか乾先輩だとか、他のひとだと危ないからそう言ったの。あのひと、もてるのに無自覚だからさ。それに跡部さん、国光さんは完全に恋愛対象外でしょ』
「手塚のどこに恋しろってんだ。絶対に有り得ねぇ」
手塚の容姿は悪くはない。しかし、性格に難あり、そもそも男という時点で恋愛対象外だ。同性愛に偏見はないが、よくもまぁ、あんな手の掛かる男を愛せるものだと跡部は思う。
『でもさ、跡部さん、国光さんと一緒にいて、ホントにムラって来ない?』
「来ねぇよ。ムカつくことなら、多々あるがな」
『ふーん。でも、仲いいよね』
「仕方がねぇだろ。幼馴染みなうえに腐れ縁だ」
『でも、幼馴染みって、何かいいよね』
「……そうか?」
『うん。羨ましい。国光さん、オレと会うとアンタの話ばっかなんだもん』
「アン?」
跡部は眉を寄せた。
『跡部さんが作ったパスタが美味しかったとか、ああしろこうしろ、一々、五月蝿いとか。納豆を食べさせたら、思い切り変な顔してたとか、近所の雌猫にやたら懐かれてるとか…』
「………」
『そう言えば、最近、彼女が出来たけど、三日もしないうちにフラれたって、ホント?』
ミシリと頭の片隅に追い込むことに成功した忌まわしき出来事が跡部の脳裏に甦る。跡部はこめかみを引き攣らせた。別れた理由は手塚とリョーマの所為である。勘違いでリョーマが浮気したと信じ込んだ手塚を宥める為に奔走した結果、その日約束していた彼女との食事をすっぽかすという醜態を晒してしまったのだ。それが原因で付き合い始めて、三日でフラれるという……跡部の中でその出来事は人生最大の汚点になっていた。
「…越前」
『なに?』
作品名:【テニプリ】温泉に行こう! 作家名:冬故