ハツモノ
「だからせめてさ、次は僕からしてもいい?」
「え? 次って――」
ミントが言い終わらないうちに、お返しだと言わんばかりにクレスがミントの両肩を掴む。距離を取っていたミントを引き寄せ、腕をミントの背に回すと、クレスの腕の中で反射的に縮こまってしまったミントの唇をそっと奪った。
ミントが目を丸くする一方でクレスは目を閉じ、触れているという意識でしか無かった感触をもう一度確かめていた。想像通り柔らかくて、想像よりずっと心地良い。
次第に、ミントの緊張が少しずつ解れていったらしい。硬くしていた体から力が抜けると、ミントの腕もクレスの背に回された。目を閉じ、クレスと同じように、クレスを感じる。
時折だが呼吸のため僅かに離れては、また重なる。2度目は離れるのがたまらなく惜しくて、一瞬だけであっても互いが恋しかった。
もっと触れていたい、と思うが、勿論ずっとこのままでいるわけにはいかない。クレスは、ゆっくり、ゆっくりミントを解放した。腕はまだ離さないけれど、今日の所はこれで終わりだ。
「クレス、さん」
だというのに。クレスは見上げてくるミントの瞳に己しか映っていないのを見つけると、遠くに追いやって気付かないようにしていた筈のものが胸の中でざわつくのを感じた。
(今はダメだ)
理性で懸命に蓋をして、それでも漏れだす感情の蠢きは、今はミントに悟られたくない。だが、結局腕の中に彼女を閉じ込めたままでは終われなくて。ミントが別の場所へ去ってしまわない内に彼女を再び奪い取った。