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四月になれば彼女は

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 よく出来たレプリカだった。
 毛並みは黒く艶やかで、ほっそりとした肢体はしなやかで若々しい。
 宝石を嵌め込んだような美しいエメラルドの瞳を細め、気紛れにみゃあ、と鳴く。なるほど、本物かと錯覚しそうなほど良く出来たレプリカだ。
「土産だ」
 ネクタイを緩めながらのガイナンの声は果たして届いているのか。
 じっと紛い物の猫を眺めていたJr.は、やがて細い手を伸ばし、壊れ物を扱うようにそっと猫を抱き上げた。
 腕に付加のかかる確かな重力。
 そして柔らかい体からは暖かい熱が伝わった。
 その瞳を覗き込めば、驚いたように瞬きをする。
「すっげえな、これ。本物みたいだぜ!」
「喜んで貰えてダディは嬉しいよ」
 無表情に投げやりに返る言葉に、Jr.は盛大に顔を顰めた。
「気色悪ぃ冗談抜かすな。…しかしこれ、どうしたんだ?」
「取り引き相手から寄越された。当社の試作品ですがよろしければご子息にどうぞ、だそうだ」
「息子のご機嫌取り用の玩具かよ」
「量産型のペットロボットだから、あながち外れてもいないな。リーズナブルで高機能、が売り文句だとか」
「古来より、父親が子どものご機嫌取りに使う道具はペットか玩具か遊園地、ってか?」
 まあいいさ、ご機嫌取られてやるよ。
 肩を竦めて、Jr.は腕の中の猫を抱えなおした。
「お前の名前、どうするかな。…あ、こいつ雌猫じゃん。レディにガイナンなんて厳つい名前はやっぱり失礼か?」
 黒い毛並みと碧の瞳で直結したらしい――それだけの理由ではないかもしれないが――名前は、しかしJr.自身によって却下された。
 となれば、次の有力候補はおのずと決まっている。
 厳ついと言われてしまった名の青年が、今度は肩を竦める番だった。既に確信に近い予想で、Jr.の思考が読める。
 あてつけと洒落と少しばかりの郷愁を込めて、青年が既に捨てた名前を付けるに違いない。
「じゃあ、お前はニグレドだな。決定!」
 ガイナンの予想に違わぬ命名に、貴婦人は同意するように一声鳴いた。

作品名:四月になれば彼女は 作家名:カシイ